対北朝鮮交渉の時間切れ迫る 対話模索する米国務省担当の孤立無援
北朝鮮側のショック
匿名を条件に取材に応じてくれたある米当局者は、ユン特別代表が外交的に「命綱のない」状態に置かれており、外交的解決よりも経済制裁と軍事的な威嚇を重視する政権中枢のアプローチと、十分に連携を取れていないという。
ユン特別代表の過去1年間における外交成果の1つは、オスロとニューヨークでの北朝鮮当局者との秘密交渉により、22歳のワームビアさんを同国から解放したことだ。ユン氏は6月に首都平壌に飛び、北朝鮮の医療施設からワームビアさんを取り戻した。
本件に詳しい米国政府筋によれば、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長は、オスロでユン特別代表と会談した際、ワームビアさんの容態の深刻さを認識していなかったという。
この情報提供者によれば、ワームビアさんの容態を知った崔局長は「ショックを受け」、ユン特別代表はただちに米国に召還されてニューヨークで北朝鮮外交官と面会し、これがワームビアさんの帰国に直結したという。
国務省当局者によれば、ワームビアさんの死去は、この時点で米朝関係を冷却する要因になったため、ユン特別代表の努力は微妙なものになったという。
「暗黒の状況に陥る」
国務省の当局者によれば、北朝鮮政府に対するトランプ大統領の軍事的な威嚇にもかかわらず、ユン特別代表は「外交的な働きかけを減らせば、暗黒の状況に陥る可能性が増す」と考えているという。
たとえそうであっても、トランプ大統領の言動によって、同盟国や恐らく北朝鮮も、大統領や彼の政権がそもそも外交に関して、またユン氏の任務に関して、どの程度本気なのか疑問を抱いている。
トランプ大統領は、政権内の専門家の提言に反し、米朝間の対立を「人格化」してしまい、正恩氏を「ちびのロケットマン」と嘲笑した。国家安全保障関係の高官によれば、一部の専門家は、これが非生産的な結果につながり得ると警告しているという。
だが別の当局者は、トランプ氏は5月に「金氏と会えれば光栄だ」と発言しており、最近では正恩氏に対して新たな「口撃」を手控えており、これまでとは違うアプローチに対する期待が生まれているという。
ある韓国政府当局者は、米国がそもそも朝鮮半島への関与を確保したいのであれば、将来の交渉を加速させるために、北朝鮮との窓口になる人物を用意しておくことが必要だと語っている。
だが米政権のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は最近NHKに対して、「われわれは延々と続く交渉を開始する余裕はない。北朝鮮はこうした交渉を隠れみのにして、核兵器・ミサイル開発計画を続けていく」と語っている。