アイ・ウェイウェイが映す難民の現実『ヒューマンフロー』
自身も頻繁に画面に登場
作品は海の上を飛ぶ1羽の渡り鳥の映像から始まり、一転して地中海を渡る難民船に移る。人間にとって「渡り」は正常かつ自然な過程であり、それを遮る国境や法律こそ自然に反するというメッセージだ。
筆者が艾に取材したのは、トランプ米政権が最新版の入国禁止令を発表し、反イスラム・反移民の極右政党が戦後初めてドイツ連邦議会に進出した直後だった。「トランプもドイツの極右もブレグジット(英EU離脱)も、全ては私たちの過去の発現にすぎない。似たようなことは前にもあった」
難民・移民というテーマこそありふれたものではあるが、艾の作風は独特で、映像の雰囲気もスタイルも目まぐるしく変わる。音もなく流れる難民の痛々しい映像は、多くがドローンを飛ばして撮影したもの。海岸に捨てられたオレンジ色の救命ジャケットを俯瞰した映像は、艾が以前に作った無数の陶製のカニの作品を連想させもする。
こうした映像の間に、出会った難民たちを艾自身が自らiPhoneで撮影した映像や、難民問題の専門家をインタビューした映像などが挿入される(ただし著名な政治家や権力者は一人も出てこない)。
この映画は今そこにある難民危機を俯瞰したものではない。難民危機の取材を通じて艾の脳内に発生した神経信号を、ダイレクトに表現したものだ。
艾自身も頻繁に画面に登場する。ギリシャのレスボス島に到着した人々に毛布を掛けたり、ケニアの難民キャンプでヤギを追い掛けたり、パレスチナ自治区ガザで群衆と楽しく踊ったり。
「作中の私は道化師のような役割だ」と艾は言う。「大事なのは、こうした大きな問題にも誰だって関与できるということ。必要なのは、何かをやろうとする好奇心だ」
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© 2017, Slate
[2017年11月 7日号掲載]