最新記事

米外交

殺された米兵はニジェールで何をしていたのか

2017年10月26日(木)16時00分
デービッド・リット(米国務省元顧問)

ニジェールで殺された米兵の亡骸を運ぶ儀仗兵(10月21日) Joe Skipper-REUTERS

<アメリカ人さえ知らないところでアフリカの国に駐留し、治安部隊の訓練を行う米特殊部隊、何のため?>

西アフリカのニジェールで10月4日、米軍の特殊部隊が武装勢力に襲撃され、米兵4人が死亡する事件が起きた。ドナルド・トランプ米大統領が死亡した兵士の妻に「無神経な言葉」をかけたことばかりが問題になっているが、そもそも米軍は何のためにニジェールにいたのか。多くのアメリカ人はこの事件が起きるまで、米軍がニジェールに駐留していることすら知らなかっただろう。

今回犠牲になった米兵たちのような特殊部隊は世界70~80カ国で活動してきた。主要な任務は相手国の治安部隊の訓練で、それを通じて安定化と民主化を支援する。ニジェールに派遣されたのは数年前。マリ北部とナイジェリア南部をはじめ周辺国で支配地域を広げるイスラム過激派対策の一環だった。

(危険な仕事:殺された米兵たちを待ち伏せしていたとみられるイスラム過激派。捕まえたら「首を切り落とす」「武器で戦う」などと言っているという)


この地域の過激派対策の拠点としてニジェールを選んだのには訳がある。ニジェールは西アフリカでは比較的安定した国だ。アメリカは安定化のプロセスに深く関与し、友好関係を築いてきた。ニジェールの政府と国民もアメリカに好感情を抱いている。

ニジェールはサハラ砂漠南端の半乾燥地域サヘルに位置するが、90年代初めに他のサヘル諸国とは一線を画す試みに乗り出した。形式的な民政移管を果たしたばかりの当時の政権が、複数政党制の民主主義政治を実現するため、首都ニアメのアメリカ大使館をはじめ各国大使館に支援を求めたのだ。

脆弱国家の支援が使命

かつてのニジェールでは、人災が深刻な干ばつを引き起こすこともしばしばで、今でも世界の最貧国の1つだ。その上当時は、少数民族の遊牧民トゥアレグ族が中央政府に反発を募らせ、武装蜂起を繰り返していた。当時のニジェールと周辺国には、大使館の警備に当たる海兵隊の部隊を除き、米軍は駐留していなかった。

ニジェール政府の要請を受けて、国務省国際開発庁、情報庁(現在は廃止)などの米政府機関が、ニアメに大使館を置く各国政府や国連機関、NGOと連携して選挙関連の法整備などを進め、民主的な政治制度の基盤を築いた。93年には1960年の独立以来初めて議会選挙が実施され、トゥアレグ族など少数民族の政党も候補者を擁立した。

民主的な統治への移行はどこの国でも一筋縄ではいかず時間がかかるものだ。ニジェールでも軍部のクーデターが繰り返され、民主化の進展は一進一退を余儀なくされた。11年にイスフ・マハマドゥ大統領率いる現政権が誕生し、政情はまずまず安定したが、今なお経済的・社会的インフラの構築で国際的な支援に大きく依存している。イスフ大統領は民族融和を掲げ、11年以降、首相を務めるブリジ・ラフィニはトゥアレグ族の出身だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中