対イラン交渉には「なだめ役」も必要だ
制裁解除で経済は好転
イランでも一部の指導者は、外交の「過度な軍事化」に警告を発している。ハサン・ロウハニ大統領は14年3月、「ミサイルの発射や軍事演習は筋のいい抑止力ではない」と発言した。
ロウハニは国内で対立する強硬派のイラン革命防衛隊を激しく非難している。軍事的「抵抗」に固執する彼らは、イランを普通の国に変えようとする努力を何度も台無しにしてきた。
ヨーロッパは、この内部闘争でロウハニのような穏健派に期待している。トランプが本気でイランの行動を変えたいのなら、ヨーロッパ式のアプローチを採用して目標達成を図るのも1つの方法だ。
トランプが今後の交渉で「悪者」を演じるとすれば、最大の攻め所は経済だ。その際にはイランに対するヨーロッパの基本姿勢を理解する必要がある。
ヨーロッパは安全保障とビジネスの両面で、イランに関与したいと考えている。イランは人口8000万の大きな市場であり、中東では比較的国内が安定している。ヨーロッパにとって、核合意の破棄という選択肢はあり得ない。
ヨーロッパ諸国は核合意の破棄は望まないとしても、イランとの経済的な関わり方を調整する余地はある。具体的には、イラン政府が経済成長の起爆剤になるような関係を望むのなら、外交政策の穏健化が不可欠だとはっきり伝えることはできる。
ヨーロッパ諸国は、長年の同盟国であるアメリカが対イラン強硬策を強く主張すれば同調せざるを得ない。そのことはイランもよく知っている。ヨーロッパ諸国はイランに対して、「私たちにそのような選択をさせないでほしい」というメッセージを送るべきだ。
シリアやイラクへの軍事介入を見るとイランが無敵の強国に思えるかもしれないが、国内経済の低迷という弱点は克服できていない。
制裁が解除されて以降、イランの経済が好転したことは確かだ。原油生産は制裁前の水準を回復し、国外からの直接投資も増えている。昨年の経済成長率は約6%を記録し、イラン中央銀行によれば、今年も5%の成長が予測されている。
だが、これでもまだ十分とは言えない。政府高官によれば、イランの失業者は340万人に達するが、毎年創出できる新規雇用は必要な数の半分に満たないという。また、別の高官によれば、失業率が60%に達している都市もあるとのことだ。