ドイツはロシアから東欧を守れ
これら4カ国はEUやNATO(北大西洋条約機構)を強く支持する一方、西側、特にその政治指導者に対しては、複雑な感情を持っている。
移民排斥や愛国主義といったポピュリストの台頭は、メルケルのイメージを傷つけた。ロシアも、人々の不満に付け込んで反メルケルの情報操作に一役買った。メルケルはリベラル的な寛容を嫌う人々の敵になった。メルケルのような超リベラル主義は衰退する西欧エリートの象徴で、多文化主義や連邦主義の原則のためには欧州の安全保障をも犠牲にし、東欧諸国を移民でいっぱいにしようとしている、というわけだ。
メルケルが、最初は寛容だったシリアなどからの難民・移民の受け入れを厳格化し、イスラム教徒の女性に顔や全身を覆う「ブルカ」の着用を禁止したことは、東欧ではほとんど注目されなかった。東欧から見たドイツは、リベラルの覇者として自国の価値観を近隣諸国に押し付けてくる偽善国家だ。
ヴィシェグラード4カ国の欧州懐疑主義は反ドイツ的な姿勢を煽り、ドイツが東欧を経済的に搾取しているという根拠のない見方も広がっている。
プーチンは強く、伝統を守る指導者
ハンガリーのビクトル・オルバン首相は7月下旬に行った演説で、ドイツ企業をやり玉に上げた。「ドイツは、ハンガリーには連帯が足りないと批判する前に、5回考え直すべきだ。ドイツ人労働者は、ハンガリーのドイツ企業でドイツ人とまったく同じ作業をするハンガリー人より、5倍も高い給料をもらっている。それを棚に上げて他国の連帯について口出しするなど、恥を知るべきだ」
東欧のロシアに対する見方は、ドイツとは対照的だ。チェコとスロバキア、ハンガリーの3カ国では、よくプーチンがメルケルに対峙する指導者として描かれる。プーチンは国家や家族、キリスト教といった伝統的な価値観の擁護者だ、グローバルなテロとの戦いに効果的に対抗できる強者だ、もしプーチンが欧州の政治指導者なら難民危機を簡単に解決できた、という肯定的なイメージだ。
難民危機は、リベラルを否定し移民を嫌悪する東欧の風潮に拍車をかけただけでなく、東欧とドイツとの心理的な距離を広げ、逆にロシアとの距離を縮めた。
ドイツはこれまで、経済的な利益を優先させ、東欧との直接的で激しい対立を避けてきた。だがドイツの政治家たちは、この地域に及ぼされた政治的なダメージを自覚する必要がある。メルケルとエマニュエル・マクロン仏大統領が欧州統合の深化に向けて連携するつもりなら尚更だ。