最新記事

シリア

シリアが直面する「アサド頼み」の現実

2017年10月3日(火)16時15分
アンチャル・ボーラ(ジャーナリスト)

戦争はもうこりごりだと誰もが思っている。政府は何もしてくれないが、多少なりとも平穏な暮らしを取り戻すには政府を頼りにするしかない。

反政府勢力にジハード(聖戦)を掲げる一派が交じっていることも、人々の不信を招いている。シャイフ・サイード地区ではその最大派閥の自由シリア軍が国際テロ組織アルカイダ系のアルヌスラ戦線(現シリア征服戦線)と共闘したため、住民がアサド政権寄りになった。

ダマスカス東部の一部地域では今も戦闘が続いているが、反政府勢力は四分五裂。政府軍との交戦に加え、自分たちの間でも陣地を奪い合っている。

ダマスカス東部の旧市街、キリスト教徒が多いバーブ・シャルキー地区には反政府勢力がいたずらに砲撃を繰り返している。数キロ先から砲撃してくる重装備のイスラム過激派が住民の共感を得ることはないだろう。

地元のバーでは若い男女がワインや水たばこを楽しんでいる。「ほら、死人が通る」と、住む家をなくした路上生活者を男が指さす。悪趣味な冗談も薄ら笑いも厭戦気分をごまかすためなのだろうか。「いい時に来たな。テロシーズン本番だ」

「内戦終結は『ゴドーを待つ』ようなもの」だと、終わりの見えない不条理劇に例えて彼は言う。「聞こえるだけじゃなく感じる。俺たち目掛けて迫撃砲が飛んでくるのを。ジハーディストは俺たちを攻撃するだけじゃなく、仲間同士でも戦ってる。何が反政府派だ」

批判すれば「消される」

アサド以外に選択肢はないと感じているのはシリア国民だけではない。反政府派を支持していた国々がこの数週間、アサド続投を容認するよう反政府派に迫っている。サウジアラビアは反政府派の交渉担当者に戦略見直しを要請。ボリス・ジョンソン英外相もアサド退陣を和平交渉開始の前提条件とするのは非現実的だと認めた。

といってもアサドがシリアの国民や国家を掌握したわけではない。シリアの一部勢力が和平実現を優先して、政治信条を一時棚上げしているだけだ。

「今は奴らと戦う必要がある」と、ダマスカスのバーで知り合った男は言う。「奴ら」とはジハーディストと反政府派だ。「でも次の手も考えないと」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国の半導体関税、台湾経済部長「影響をシミュレーシ

ワールド

イランとの合意、ウラン濃縮と兵器の検証が鍵=米政権

ワールド

米財務長官がアルゼンチン大統領と会談、経済改革を評

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株上昇や円高一服受け幅広く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中