シリアが直面する「アサド頼み」の現実
アサドが約束した安定がほぼ実現している地域でも、政府への恐怖と憤りは時折顔を出す。アレッポ西部の政府側の拠点、モカンボ地区。カフェやアウトレットモールは上流中産階級の人々でにぎわう。東部に比べれば反政府派の砲撃による被害ははるかに小さく、カネを払えば電気も使える。ただし内戦勃発前は1カ月40ドルだった電気代が今では1週間で400ドルだ。
「昨年半ばまでは客なんていなかったが今は繁盛している」と菓子店を営むラミは言う。「人手が足りないくらいだ」。ライフラインの復旧の遅れについては「こんなときに文句は言えないだろう」と苦々しげに答えた。
アレッポ市内のスポーツクラブでは若い女性がプールの順番待ちをしていた。内戦勃発後はレバノンで暮らしていたという。内戦の責任は誰にあるかと尋ねると、「政府については何も話したくない」と言われた。バスケットボールのコーチからも、政治の話は断られた。「僕はスポーツマンだ。今の質問はスポーツとは関係ない。悪いが政府の話はできない」
シリア国民が政権批判を避けたがる理由は明らかだ。アサド一族の支配はシリア情報機関によって維持されてきた。国際人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルの8月の報告によれば、11年の内戦勃発以降7万5000人以上が「消えた」。11年9月~15年12月にはダマスカス郊外のセドナヤ刑務所だけで最大1万3000人が処刑されたとみられる。
新たな戦争以外なら何が起きても我慢しよう、と多くの国民が思うのも無理はない。アサドの復活は国民の支持ではなく、厭戦ムードや反政府派に対する軽蔑のおかげ。恒久的な平和とは別物だ。
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[2017年10月 3日号掲載]