最新記事

インドネシア

反LGBT気運が強まるインドネシア 外国人含むゲイら58人を逮捕

2017年10月10日(火)10時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

客と従業員、58人が逮捕されたジャカルタのサウナ施設(9日) Beawiharta Beawiharta-REUTERS

<現在のウィドド政権はイスラム教組織のLGBT敵視に同調して、警察の「見せしめ」的な摘発強化を黙認している>

インドネシア警察は10月6日に首都ジャカルタ市内にあるサウナ施設に踏み込み、当時中にいた外国人を含むゲイの男性ら58人を逮捕した。容疑は反ポルノ法と麻薬取締法違反容疑というが、警察の説明は具体性と一貫性に欠けており、人権擁護団体やLGBT(性的少数者)支援組織などからは批判が出ている。

インドネシアは世界最大のイスラム教徒人口を擁する国だがイスラム教は国教ではなく、キリスト教徒、仏教徒、ヒンズー教徒らの権利も保障されている。しかし人口の約88%と圧倒的多数を占めるイスラム教徒の価値観が優先される傾向が強く、同性愛に厳しい立場を取るイスラム教団体などによる反LGBT運動が昨年1月以来インドネシアでも強まっている。警察による今回の大量逮捕の背景にもそうした最近のインドネシアのイスラム教の価値観を優先あるいは重視する傾向が色濃く反映しているものとみられている。

インドネシア警察によると、ジャカルタ市内のサウナとジムが併設されている施設で売春行為が行われている、との市民からの通報に基づき内偵を開始、10月6日に警察官が一斉に当該施設を家宅捜索、施設内にいた客51人と従業員・オーナーの7人の計58人を逮捕した。51人の中には中国人4人、オランダ人1人、タイ人1人の6人の外国人が含まれているという。従業員とオーナーは「客にわいせつなサービスを行う場所を提供した」容疑で逮捕したという。

アチェ州を除き、同性愛は違法ではない

インドネシアではイスラム法が適用されているスマトラ島北部のアチェ州以外の全ての州において同性愛者であること、ゲイ、レズビアンによる同性同士の性行為は法律的にはなんら問題なく違法ではない。しかし、同性愛を禁忌とみなす傾向の強いイスラム教徒が多数のインドネシア社会では法律よりイスラム教の規範、習慣、モラルが往々にして優先されることもまた事実である。

逮捕された従業員とオーナーは最高で禁固10年の刑が科される可能性があるという。また逮捕された外国人6人を含む51人に関しては「今後の捜査で麻薬所持や犯罪への関与がなければ釈放されるだろう」と警察は発表している。そもそも外国人6人とインドネシア人45人の逮捕については具体的な犯罪容疑に基づいているのか判然としていない。インドネシア人45人に関しては大半がイスラム教徒であることから、イスラム教の教えに反する行為をした、あるいはしようとしていたということによる「見せしめ」の意味合いがあるとみられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中