最新記事

イラク

解放後のモスルに渦巻くISIS協力者狩り

2017年10月30日(月)11時30分
エミリー・フェルドマン

正当な法手続きが難しく

最近の攻防で虐待の規模が拡大しており、ISIS協力者への怒りはイラク戦争下の最悪の時期に匹敵すると、ポートマンは指摘する。イラク治安部隊はISISに協力した可能性のある人間(未成年者も含む)を悪臭漂う仮設刑務所に押し込み、ISISメンバーの妻子を収容所に送っている。7月の国連報告書によれば、ある収容所の環境は「人道的な基準以下」で、8日間に10人が死亡した。

その後イラク当局は、「報復から守るため」にISIS協力者の妻子1400人以上を逮捕した。「大勢の友人を失えば、復讐を願わずにはいられない」と、ポートマンは言う。

その感情が正当な法手続きを難しくしている。いい弁護士が付いても、裁判所の職員が不慣れだったり、裁判の多さに対応しきれなかったり、復讐に燃えていたりする恐れがある。

ハートランドに代わって裁判官や検察官向けのワークショップを運営する人権活動家のクライシの話では、若い戦闘員や無理やり仲間にされた人々に同情的な声もある。その一方で、指揮官でも12歳の新兵でもISISには違いないから「焼き殺せ」という声も聞くという。

あふれ返る拘束者が状況をさらに厄介にしている。クライシによれば、クルド自治区とイラク当局はISISと関係のある子供約5000人を拘束。裁判待ちの列は伸びる一方で、場合によっては審理開始まで数カ月かかり、ようやく始まっても短期結審になりがちだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、空き家を利用したニネベのテロ対策法廷は7月上旬、約2000件を審理。裁判官12人で1日40~50件を審理していたという。

ある都市で逮捕された容疑者が釈放後に別の都市で再び逮捕される例もあり、人権擁護団体は状況改善に努めている。心理学者やソーシャルワーカーは離散家族の再会や孤児対策、虐待の調査報告に取り組んでいる。ハートランドなどの法務チームは裁判官や検察官や弁護士に、訴訟ごとに状況を慎重に検討するようアドバイスしている。

「彼らは本当に過激派で犯罪者なのか。それともISISに強制されて行動を共にしていただけなのか」と、クライシは問い掛ける。「彼らは幼い犠牲者なのか、それとも殺人者なのか」

虐待や不当な有罪判決が深刻な事態を招く可能性もある。女性や子供を村八分にすれば、過激派の勧誘の標的になりかねず、未成年者を筋金入りのジハーディスト(聖戦士)と一緒に収監するのは新世代の殺人者を生み出すようなものだという。

「司法関係者に理解させなくては」と、クライシは言う。「法の支配は全ての人間に行き渡る。被害者にも、犯罪者にもだ」

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年10月31日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米関税で不確実性、政策運営「何ら予断持てる状態にな

ワールド

ロシア、米系企業接収で軍への食料供給計画

ビジネス

アングル:日本の起債市場、復調の兆しもなお薄氷 ブ

ビジネス

「スマート」「自律」の使用禁止、自動車運転支援機能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 7
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    金沢の「尹奉吉記念館」問題を考える
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中