メルケルの「苦い勝利」はEUの敗北
ブレグジットにも影響が
ドイツの「ジャマイカ連立」(各党のイメージカラーの黒、黄、緑がジャマイカの国旗の色と同じことから)の実現は容易ではなく、数カ月かかる可能性も十分ある。FDPと緑の党の立場はなかなか折り合わないことが多い。FDPは緑の党が主張する多文化主義や移民に寛容な政策を拒否し、経済やEU統合強化をめぐっても両党の立場には大きな溝がある。メルケルはその溝を埋めるべく悪戦苦闘することになるだろう。
連立交渉の難航は、イギリスのテリーザ・メイ首相とブレグジット(EU離脱)支持派にとっても頭が痛い。メイは9月22日イタリアのフィレンツェで演説。10月のEU首脳会議中に離脱交渉の行き詰まりを打開し、EUとの将来の「深いパートナーシップ」の協議に進みたいと述べた。
ゴーサインを出すのはメイではなく、細かい詰めの作業はEUのミシェル・バルニエ首席交渉官と欧州委員会が、EU離脱手続きを定めたリスボン条約50条にのっとって行うことになりそうだ。離脱交渉期限は19年3月29日、イギリスにはもうあまり時間がない。
エリート層の支配にノーという声を上げているのはドイツの有権者だけではない。(マクロン率いる中道政党が勝利したとはいえ)フランス、ドナルド・トランプ大統領を選んだアメリカ、メイとブレグジットを選んだイギリスでも状況は同じだ。この手の選挙結果は民主主義が機能不全に陥るリスクを増大させる。制度は重要だが、崩壊する可能性もある。
そのような選挙結果は、政治システムの回復力も、経済・社会の回復力も共に弱めることになる。問題は、こうした退化を逆転させる方法を政治家たちが見つけられるかどうかだ。
ドイツの新たな連立政権がメルケルの指導力にとって最大の試練になるとしても、メルケルは気質、経験、能力からいってそうした役回りに恐らく最適の人物だ。確かに制度は重要だが、人格とリーダーシップが制度を形作る。メルケル政権が4期目に最も素晴らしい成果を残すことを祈ろう。
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[2017年10月10日号掲載]