2049年によみがえった『ブレードランナー』のディストピア
そんななかでも、しぶとく生き残り続ける組織がロサンゼルス市警察(LAPD)だ。ロゴまで変わらない健在ぶりは、時にユーモア不足の本作の数少ない笑いどころ。ライアン・ゴズリング扮する主人公で、カフカの不条理小説の登場人物を思わせる「K」という名の捜査官は、何かというとLAPDのバッジを振りかざす。
ハリソン・フォードが演じた前作の主役デッカードは、逃亡したレプリカントを取り締まる「ブレードランナー」で、本人もレプリカントではないかという見方がある(答えは、どのバージョンを見たかによって変わるだろう)。しかしKの場合、レプリカントであることが冒頭から明らかにされる。
Kは人間への服従度を高めた新型レプリカントだという。警部補ジョシ(ロビン・ライト)の下でブレードランナーとして働き、旧型レプリカントを探し出して容赦なく処分している。
かつてのデッカードと同じく、Kの毎日は満たされない。憂鬱で孤独で、慰めはプログラミングによって作り出されたホログラフィーでKの望みのままに姿も態度も変える恋人ジョイ(アナ・デ・アルマス)だけ。だがある事件を捜査するうちに、植え付けられた偽物と思っていた自分の記憶が本物であることを示唆する証拠に出合う。ジョイが言うように、Kは人造のレプリンカントでなく「本物の男の子」かもしれないのだ。
自らの過去を解明するため、Kは行方不明になった元ブレードランナーを捜す。その正体はご想像どおりだが、おなじみのあの顔が出てくるのは物語の4分の3が過ぎてから。ようやく同じ場面に登場するゴズリングとフォードは、全く違うタイプの俳優ながら意外なことに相性がよく、共演シーンはリアルな感情に満ちている。
既視感のある設定だが
とはいえ2時間43分もある本作の長い中盤はオリジナルの焼き直しにすぎない。新型レプリカントの開発者で、ミニマリスト的なオフィスに引き籠もるニアンダー・ウォレス(ジャレッド・レト)、彼の部下で非情な女性レプリカントのラブ(シルビア・フークス)、戦車のようなスピナーで空を飛ぶKの眼下に広がる寒々しい光景......。
街角のCMはゲイシャの映像から、歩く3Dホログラフィーの巨大な裸の女に変化した。テクノロジーの未来をポルノの日常化として描くのは、『2049』において最も強烈なイメージの1つ。だが人間の欲望や性衝動は遠くない将来、デジタル的に処理されるという恐ろしいアイデアが深く掘り下げられていないのがじれったい。
「俺はおまえたちには信じられないようなものを見てきた」。前作のクライマックスで、ルトガー・ハウアー扮するレプリカントのロイ・バッティは雨のなか、寿命が尽きる瞬間を前にしてそう語る。新たな『ブレードランナー2049』は信じられないような映像で観客を魅了する。だが、見えないものまでも示唆するオリジナルの魔力は再現し切れていない。
© 2017, Slate
[2017年10月24日号掲載]