バノン氏の「トランプは習近平を誰よりも尊敬」発言とトランプ国連演説の整合性は?
そのため習近平は9月19日からニューヨークで開催される国連総会には欠席した。
それを早くから承知の上で、トランプと習近平は8月から3回も電話会談をして、習近平の承諾を取りつけていたものと解釈すべきなのだろうか。
トランプの国連総会における北朝鮮「完全破壊」と二人の仲の整合性は?
9月19日、トランプは国連総会に初登場し、スピーチを行なった。そこで何を言うか、世界中が固唾を呑んで注目していたが、トランプは、やむをえない場合は「北朝鮮を完全に破壊する選択肢しかない」と、軍事行動断行の可能性を表明したのだ。
中国は北朝鮮の核保有には絶対に反対である。あのような「大暴れ孫悟空」が核を保有したら、中国は安泰ではいられない。北朝鮮をコントロールすることもできなくなり、中国自身が危機に見舞われる。それに北が持てば南も持つようになり、結果、日本も持つようになるだろう。中国はそのことを何よりも警戒している。
それでいながら、あくまでも対話による平和的解決を求めてきた。圧力を強化し過ぎれば、退路を無くした「ならず者」がミサイルを北京に向けてくるだろうことは容易に想像がつく。だから、ひたすら「双暫停(米朝双方とも暫時、軍事行動を停止し、対話のテーブルに着くこと)」を提唱してきた。
トランプがどんなに習近平を尊敬していると言っても、この「双暫停」を受け入れるわけではあるまい。
そして習近平もまた、アメリカがピンポイント攻撃以外の手段で北朝鮮を先制攻撃するのを決して認めることはないだろう。
これまで何度も書いてきたように、中国は、アメリカが「外科手術的手段」で北朝鮮の核・ミサイル開発基地を攻撃することに関しては「黙認する」と中国は「環球時報」社説を通して表明してきた。しかし米韓軍が38度線を越えた場合は、絶対に阻止するとも表明している。
ということは、トランプが国連総会で演説した北朝鮮の「完全破壊」は、何らかのピンポイント攻撃であることが考えられる。
マティス米国防長官は9月18日、「北朝鮮に対する多くの軍事的選択肢があり、その中には韓国の首都ソウルを危険にさらさずに行使できるものも含まれる」と述べた。
もしバノンの言ったことが本当なら、トランプは習近平の意向を尊重していることになるはずで、「トランプと習近平の暗黙の了解」の上での「北朝鮮の完全破壊」は、習近平の許容範囲内の何らかのピンポイント攻撃になるとしか考えられない。
核・ミサイル開発基地の破壊、サイバー攻撃などによる無力化、そして場合によっては「斬首作戦」も入っているかもしれない。成功するなら、もちろんそれに越したことはないが......。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。