日本が急接近するインドが「対中国」で頼りにならない理由
中国にまだまだ追い付けない
「インドの貿易の50%は南シナ海を通過しているのだから、そこに関心を持つ正当な理由がある」と言うのは、中国研究所(デリー)のジャビン・ジェイコブだ。南シナ海における航行の自由や領有権など、あらゆる問題でインドは「国際法に従うという立場を明確にしている」とも語る。
しかし、今のインドがいくら強気の姿勢を見せても、インドと日本の同盟で中国に対抗できるようになるのは遠い先の話だろう。
もちろん、62年当時と今では状況が異なる。あの頃インド軍の兵士にはヒマラヤ山脈の高地で戦うのに必要な防寒具さえなかった。今は違う。しかし今でも中国より、経済的にも軍事的にもずっと遅れているのは事実だ。
200万人超の現役兵士を抱える中国人民解放軍は、インドの常設軍(予備役は含まず)の約2倍の規模だ。保有する戦車の数は、インドが約4400台なのに対し、中国は6500台。戦闘機はインドが約1500機で、中国が2500機だ。
フリゲート艦と駆逐艦はインドの保有数がそれぞれわずか14隻と11隻。対する中国は51隻と35隻を誇る。そして7月にインド議会に提出された報告書によれば、全面戦争が始まった場合、インド軍の保有する弾薬はわずか10日で尽きてしまう。
しかし、とコンダパリは言う。インドには中国を軍事力で制しようなどという気はない、ただ抑止力になる程度の軍備を備えたいだけだ。「中国が圧倒的な軍事力を持っているとはいえ、戦闘になれば(中国側にも)多大な犠牲が出ることになるだろう」
これを踏まえて、インドと中国とブータンが国境を接するドクラム高地で中印部隊がにらみ合いを続けた一件(8月に相互撤退で合意)を考えると、インドは少なくとも国益に関わる限り「やれるものならやってみろ」という態度で臨むことにしたようにみえる。
過去10年ほど中国は「国境侵犯」などでたびたびインドに不意打ちを食らわしてきた。またパキスタン支援を通じて間接的に、イスラム系武装勢力のカシミール地方への侵入を後押しした。
しかし今回は、インドが先にブータンへ戦闘部隊を派遣した。さらに中国が膠着状態の打開策として提案した無条件撤退を断固拒否。それどころか相互撤退の条件として、強硬姿勢で中国側に建設機材の撤去をのませた。
ただ、そうは言っても、今のインドには日米間のような軍事同盟に加わるつもりはないし、今後もないだろう。NATOは当初、第二次大戦後の東西対立を背景に発足した。だが、もしアジアに同種の組織ができたら、大きな挑発となる。
その上、インドはアメリカを信用し切っていない。パキスタンへの援助を続けているし、ブッシュ、オバマ、そしてトランプと、米政権は3代続けてインドと「戦略的パートナーシップ」を構築したり、解消したりしている。