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犬種と性格をめぐるステレオタイプが犬の命を脅かす

2017年9月13日(水)17時40分
クライブ・ウィン(アリゾナ州立大学教授)、リサ・ガンター(同博士課程在籍)

私たちアリゾナ州立大学イヌ科学共同実験室の研究チームは施設における犬種表示の信憑性を検証するため、DNA分析を行った。アメリカ西部の2カ所のシェルターに収容された1000匹近い犬の犬種鑑定を実施した結果、純血種や純血種同士を組み合わせたミックス犬は12%にすぎなかった。施設側が犬種の具体的な組み合わせまで正確に特定できていた犬は、わずか10分の1。その大半が一握りの純血種だった。

里親候補が犬種を尋ねるのは、犬種が分かればその犬の性格について何か分かるだろうと考えるからだ。しかし、犬種によって性格が違うという説は意外なほど根拠が薄い。

おのおの1万3000匹以上の犬を対象にした2つの研究によれば、同じ犬種の犬同士の性格の違いは、犬種間の性格の違いと同じか、それ以上に大きいことが分かっている。長年言われてきた犬種による行動の違いを裏付けるデータもない。

しかも、純血種でなければ犬種による性格診断など無意味だ。遺伝子を混ぜるのは絵の具を混ぜるのとは訳が違う。ボーダーコリーにラブラドールレトリバーを掛け合わせれば、すぐに泳ぎの得意な牧羊犬が生まれる、というわけにはいかない。

【参考記事】犬も退屈は苦痛です──刺激が少ないと脳が縮むと研究結果

人間はレッテルに弱い

にもかかわらず、人間は目の前にいる犬の行動よりも犬種のレッテルに左右されがちだ。私たちは、あるシェルターを訪れた51人に、知らない人間が犬舎に近づいてきたときの犬たちの反応を記録した短い映像を2つ見せた。1つはピットブルと表示された犬、もう1つは見た目はそっくりだが別の犬種として表示された「そっくりさん」の映像だ。

2つの映像を続けて見た後、どちらの犬を飼いたいか答えてもらったところ、犬種の表示を隠した場合はピットブルのほうが人気だったが、表示を戻すとピットブルの人気は急落した。

この結果は、ルイビル大学の研究者らによる研究結果を裏付けている。彼らがケンタッキー州の市営シェルターに収容された1万匹近い犬を2年間追跡したところ、ピットブルと表示された犬の4分の3が殺処分されていた。

特定の犬種に対する偏見が犬たちの不遇につながらないようにするにはどうすればいいのか。14年、フロリダ州オレンジ郡の公立の動物シェルターは勇気ある実験に踏み切った。犬舎から犬種表示を一掃したのだ。

その結果、引き取り率はピットブルと表示されたはずの犬で75%急上昇しただけでなく、全ての犬種で上昇。全体では30%上昇し、2年余りが過ぎた今もそのままだ。

犬も飼い主の人間と同様、さまざまな影響の産物であり、先祖の犬種で性格が決まるわけではない。生涯のパートナーとなる犬を探すのは、生涯のパートナーとなる人間を探すのと同じ。レッテルにとらわれず、本当に相性のいい相手を探し、何度かデートを重ね、週末に一晩一緒に過ごしてみるといい。

行動科学はペットの過剰状態を解消することはできないし、施設に収容される雑種犬を全て救うこともできない。それでも、人々がより賢明な道を選ぶための指針にはなれるはずだ。

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© 2017, Slate

[2017年9月 5日号掲載]

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