最新記事

自然災害

津波で沈んだ古代ローマの都市を発見

2017年9月4日(月)18時57分
カラム・パトン

チュニジアに残るローマ帝国時代の遺跡、エル・ジェム円形劇場 Dmitry Chulov-iStock.

<かつて交易で栄えたネアポリスが、1600年前に津波に襲われ水没した、という説は正しかったようだ>

北アフリカのチュニジア北東部沖の海底で、巨大な都市遺跡が見つかった。古の昔にここに建っていた古代ローマの都市、ネアポリスだ。ネアポリスの一部が1600年前に津波で破壊され、水没したという説の正しさを裏付ける発見だ。8月31日に、何年もネアポリスを探し続けてきた考古学者チームが発表した。

海底で見つかった遺跡から、ネアポリスには街道や建造物が網の目のように張り巡らされていて、北アフリカでも重要な交易拠点だったことがわかる。

【参考記事】古代エジプト王は最古の巨人症!? 異常な高身長ミイラは187cm

ネアポリスの一部を水没させた4世紀の津波に関しては、詳しい記録が残っている。津波は365年7月21日に発生し、当時学問の中心だったエジプトのアレクサンドリアやギリシャのクレタ島を襲った。「大発見だ」と、チュニジアとイタリアの合同考古学調査チームを率いるムニエ・ファンタールはAFP通信に語った。

発酵した魚をベースにした調味料「ガルム」を貯蔵したとみられるタンク約100個など古代ローマ帝国の食料生産の遺構が見つかったことで、古代ローマの食料生産でネアポリスが果たした役割も知ることができた。

「今回の発見で、ネアポリスがガルムや塩漬け魚の主要な生産拠点だったという確証が掴めた。恐らくネアポリスは、古代ローマで最大の生産拠点だったはずだ」とファンタールは言う。「ネアポリスの上流階級は、ガルムの生産で富を築いたのだろう」

【参考記事】こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない

カルタゴの遺跡も

チームがネアポリスの遺跡を探す調査を開始したのは2010年。今夏は天候に恵まれたおかげで、ついに遺跡の発見に至ったという。

ネアポリスはギリシャ語で「新しい都市」を意味し、紀元前5世紀に古代ギリシャ人の入植者の手で建設された。その後カルタゴやローマ帝国による支配を経て、滅びゆくネアポリスに入植したアラブ人が建設したのが、現在のチュニジアにある地中海沿岸都市、ナブールだ。ここは今では人気の観光名所として、チュニジアの陶芸の中心地になっている。

【参考記事】歴史を反省せずに50年、習近平の文化大革命が始まった


チュニジアはその立地から地中海の覇権争いの舞台となり、様々な民族による植民地支配や征服を経験した。古代ギリシャ人やフェニキア人、ローマ帝国、ビサンチン帝国(東ローマ帝国)、アラブ人とヨーロッパ人など、各時代を支配した民族や帝国を代表する荘厳な遺跡がチュニジア各地に数多く残されている。チュニジアの首都チュニス近郊には、フェニキア人が築いた古代都市カルタゴの遺跡もある。フェニキア人に特徴的な背の高い柱は、今もナブールのあちこちで見かけられる。カルタゴ遺跡は1979年に国連教育科学機関(UNESCO)の世界遺産に登録された。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中