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いとうせいこう『国境なき医師団』を見に行く(ウガンダ編)

南スーダンの「WAR」──歩いて国境を越えた女性は小さな声で語った

2017年8月7日(月)18時00分
いとうせいこう

ことは決してMSFに限らないはずだ。他の国際的人道団体においても、怪我さえ治ればいいというような意識はない。救援に向かう者にも必ずメンタルケアを受けさせるのは、人間という者がそれほど強くないと理解するようになったからに違いなく、まさに自衛隊で海外へ出た人々の自殺率の問題から言っても、日本は一刻も早く常識を変えなければならない。根性、などというものはまるで国際的な常識ではないのだ

さて、「アネックス」に話を戻す。
産前産後ケアも行っているその施設で、俺たちは問診表を持って外のベンチに並んでいる3人のアフリカ人女性に会い、話を聞いてみた。

1人はアンナ・アネットで23歳。ジェイス・ルンブカは22歳のママさんで、もう1人のベティ・ソンブアは14歳。それぞれ別の場所から逃げてきて、もともとの部族も違うのだそうだが、前回報告したのと同じく彼女らも病院で知りあって仲よくなったのに違いなかった。

中でもベティは両目が不自由で、その上に胃痛に悩まされていた。その体で半年ほど前、歩いて国境を越えてきたのだという。

そして3人が3人とも、家族がどこへ逃げたのか、生きているのかもわからずにいた。

「何があったのか教えていただけますか」

広報の谷口さんがそう言うと、誰か1人が小さな小さな声でこう言った。


「WAR」

そうとしか言いようがないし、それ以上彼女たちには何もわからないのだった。ただ身を寄せあって今を生きているだけだ。

ただ、14歳のベティが地域コミュニティの学校へ通っているという言葉だけが、俺たちに与えられた唯一の心の拠り所だった。

状況はあまりに過酷すぎた。

それがウガンダ難民の真実であり、つまり南スーダンの真実だった。

日本では派遣された自衛隊の日報が隠されたと報道されているが、俺はベティたちの言葉をここにそのまま記す。

続く

profile-itou.jpegいとうせいこう(作家・クリエーター)
1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。著書に『ノーライフキング』『見仏記』(みうらじゅんと共著)『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)など。『想像ラジオ』『鼻に挟み撃ち』で芥川賞候補に(前者は第35回野間文芸新人賞受賞)。最新刊に長編『我々の恋愛』。テレビでは「ビットワールド」(Eテレ)「オトナの!」(TBS)などにレギュラー出演中。「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務め、浅草、上野を拠点に今年で9回目を迎える。オフィシャル・サイト「55NOTE

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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