最新記事

香港

「雨傘」を吹き飛ばした中国共産党の計算高さ

2017年8月25日(金)15時30分
高口康太(ジャーナリスト)

有罪判決を受け収監された民主化リーダーの(左から)黄之鋒、羅冠聡、周永康 Bobby Yip-REUTERS

<民主化運動リーダー3人に下された思わぬ実刑判決と、香港社会に広がる政治的無関心の関係>

香港で学生と市民による路上占拠運動「雨傘運動」が始まったのは14年9月。約3年がたち、「雨傘」は北京から吹く強風で吹き飛ばされようとしている。

香港高等法院(高裁)は8月17日、雨傘運動の元学生リーダーである黄之鋒(ホアン・チーフォン)(20)、周永康(チョウ・ヨンカン)(27)、羅冠聡(ルオ・コアンツォン)(24)に禁錮6~8カ月の実刑判決を下した。3人はその日のうちに収監された。

裁判で問われていたのは、香港政府庁舎前にある「公民広場」占拠の違法性。昨年8月の一審判決は執行猶予付き禁錮刑や社会奉仕にとどまったが、二審はそれを覆して実刑を科した。

罪状は「違法集会への参加」などだが、香港メディア「立場新聞」によると、過去にこの罪で禁錮刑が適用されたのは、マフィアがらみの暴力的な事件しかない。公民広場の占拠は平和的な座り込みだったが、検察は彼らが掲げた「重奪公民広場(公民広場を奪還せよ)」のスローガンを持ち出し、「奪」という字を使った以上は暴力を前提にしていると主張。量刑引き上げを要求した。

【参考記事】中国に政治改革が必要とされる時

香港の法律では3カ月以上の禁錮刑を受けた場合、5年間にわたり被選挙権が停止される。中心的な3人が20年の立法会(議会)選挙に立候補できなくなったことで、「香港人による自決」を求める若者たちの運動は岐路に立たされた。

なぜ、こじつけにしか思えない判決が下ったのか。中国共産党の圧力には違いないが、それだけではない。12年の愛国教育反対運動で、黄らは香港政府にその義務化を撤回させることに成功している。強い民意があれば中国政府も無視できない。

今回の判決の背景にあるのは、香港市民による抵抗運動の衰退だ。一大政治運動だった雨傘運動以降、反動で香港市民の政治的関心は低下している。それを裏付けるのが、毎年7月1日の香港返還記念日に開催される「七一デモ」の参加者数だ。雨傘運動直前は主催者発表で51万人に達したが翌年から減り始め、今年は6万人にまで減少した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中