最新記事

野生鳥

ハリポタ人気で世界が直面するフクロウ問題

2017年8月23日(水)17時45分
松丸さとみ

Jim_Pintar-iStock

<「私もヘドウィグが欲しい!」と思う『ハリー・ポッター』ファン少なくないようで、各地で違法なフクロウ取引が拡大。一方で面倒を見きれなくなった飼い主によるフクロウの遺棄も問題になっている>

ハリーの忠実な友ヘドウィグからの影響

1997年の発表以来、20年経った今でも世界中で愛されている『ハリー・ポッター』シリーズ。原作の書籍のみならず、映画やテーマパークなど幅広い分野で人気を博している。しかしその陰で、フクロウが危機に瀕しているという。

魔法使いハリーのそばには、いつもフクロウのヘドウィグがいる。大型の白いフクロウはハリーの忠実な友人だ。「私もヘドウィグが欲しい!」と思うハリポタ・ファンが少なくないようで、世界的にフクロウがペットとして人気になっているようだ。そしてそれが原因で、世界のフクロウは危機に瀕している。

インドネシアではわずか650円で売買も

ハリポタの初めての映画が公開された2001年の時点では、インドネシアの鳥類市場で売られていたフクロウはわずか200〜300羽だった。しかし2016年には1万3000羽に激増し、違法なフクロウ取引が拡大しているとガーディアンが報じている。

英オックスフォード・ブルックス大学のビンセント・ナイマン教授とアナ・ネカリス教授が調査を実施。環境保護に関する科学誌グローバル・エコロジー&コンサベーションに結果を発表した。

両教授は2012〜2016年、インドネシアのバリ島とジャワ島で計20の市場を訪れ調査した。インドネシアでのフクロウ取引は、割当制度で制限されてはいるものの違法ではないため公然と行われており、市場内を巡ることで価格や種類などのデータを集められたという。

調査によると市場でのフクロウ販売価格は平均で1羽28〜38ドル(3000〜4100円)。小さなコノハズクだと、幼鳥が6ドル(約650円)で売られていたこともあり、価格が決して高くないことも、フクロウの人気を押し上げている理由と思われる。

しかし問題は、こうして売られているフクロウのほぼ全てが、野生から捕獲されたものということだ。ナイマン教授らは、インドネシアの市場では捕獲された野生鳥の商業的取引は禁止されており、本来こうしたフクロウの売買はできないはずだと指摘する。

インドネシアで保護鳥に指定されているフクロウはビアクコノハズクのみ。市場で売買されていたフクロウはどれも、インドネシアのみならず世界的にも絶滅が危惧された種類ではなかったものの、フクロウをインドネシアの保護鳥に指定することが、フクロウ人気からのネガティブな影響を軽減する一歩だとナイマン教授らは訴えている。

インドではハリポタと黒魔術が原因

インドでもハリポタ人気を受けてペットとしてのフクロウ人気が高まっており、違法な鳥売買が増加している。これを受けて野生生物保護団体トラフィックが2010年、インド国内のフクロウ生息数に関する調査を実施。インドのラミッシュ環境相は同年11月、調査報告書の発表時に、インドでのハリポタ人気がフクロウ生息数減少に影響を及ぼしていると主張した(BBC)。ただしトラフィックの報告書によるとインドの場合、ハリポタ人気のみならず、黒魔術に使用するという理由でフクロウが求められる場合も多いという。

【参考記事】垂れ耳猫のスコフォがこの世から消える!? 動物愛護団体から残酷との声
【参考記事】イルカの赤ちゃん、興奮した人間たちの自撮りでショック死

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

-日産、11日の取締役会で内田社長の退任案を協議=

ビジネス

デフレ判断指標プラス「明るい兆し」、金融政策日銀に

ビジネス

FRB、夏まで忍耐必要も 米経済に不透明感=アトラ

ワールド

トルコ、ウクライナで平和維持活動なら貢献可能=国防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中