トランプが共鳴する「極右思想」 ルネ・ゲノンの伝統主義とは?
トランプとロシアのラブロフ外相の会談を伝えるホワイトハウスのテレビ JONATHAN ERNST-REUTERS
<トランプが大統領選に勝利し、現在のような混乱を巻き起こしている背景には、あるフランスの哲学者の思想がある>
今にして思えば、ドナルド・トランプがホワイトハウスの主になり、しかも現在のような混乱を巻き起こすことを、私は30年以上前に知らされていたのかもしれない。
そのとき私はパリ郊外の冴えないバーで、ある欧州の極右政治家と会っていた。彼は西側の体制と民主主義の堕落について、強い社会をつくる民族の純血と価値の喪失について、熱弁を振るった。私は言った。「その偽りの議論は、6000万人の犠牲者を出した第二次大戦によって決着を見たのではないか」
当時の私は、彼の意見はいずれ勢いを失うグロテスクな古い極右思想だと考えた。だが、その熱い語り口には警戒心を抱いた。彼との対話が教えてくれた教訓は、恐怖や社会変動との闘いにおいて、分別は無力だということだった。
しかし、これはヨーロッパ人の議論にとどまらない。バーでの対話より60年前、地球の反対側で同様の現象が起こり、1931年の満州事変に始まる日本の軍国主義の跳梁(ちょうりょう)をもたらした。
驚いたことに昨年、80年代のパリで極右の男が言っていたことが現実となり、アメリカでトランプが大統領に当選した。
バーで会った男は、フランスの哲学者ルネ・ゲノンについて熱く語っていた。ゲノンの思想は「伝統主義」と呼ばれ、80年以上にわたり極右勢力の精神的支柱となっている。
ゲノンは、西洋文明が地殻的大変動に向かっていると見なす。伝統を重んじ、グローバリズムを拒み、文化相対主義に汚されず、宗教を重んじる単一の「真実」に基づく社会に回帰することを願っている。
彼はイタリア人の思想家ユリウス・エボラと共に、イタリアとドイツのファシズムの父といわれる。
世界観に直感的に共鳴
あらゆる国と時代の伝統主義者は、洗練されたコスモポリタン、つまり「外国」のエリートによる一般市民の搾取とモラルの堕落を非難する。ファシストが外国の影響を罵り、邪悪な「他者」である人々(ユダヤ人、フリーメーソン、無神論者、同性愛者、白人、黒人、ロマ)を殺害したのは偶然ではない。
トランプが大統領選出馬を表明した演説で、「移民」を犯罪者扱いしたことを思い出してほしい。アメリカ人は、自分たちはこのような憎悪や恐怖とは縁がないと思いがちだ。だから私は昨年の大統領選で、トランプの選対本部長を務めたスティーブ・バノンの思想的な師としてゲノンが話題になったことにうろたえた。