河野外相に対する中国の期待と失望
朝日新聞は2014年に複数の謝罪記事を出したが、「覆水盆に返らず」。
朝日新聞が発信し続けた慰安婦問題に関する「日本の罪」は、すでにアメリカをはじめとした世界の津々浦々に拡散してしまい、回収不可能な状況になっている。
それを河野太郎氏が引き継ぐとしたら、こんな罪作りなことはないと、「中国の期待」と河野外相の言動に筆者も注目していた。
王毅外相を失望させた河野外相
その折りも折り、8月7日に行われた日中外相会談で、河野外相は王毅外相に「失望した」と言わせた。いいことだ。王毅外相を喜ばせるようでは失格だ。それこそ、日本国民の一人として「失望する」。
中国では前述のとおり、河野外相にはあの河野談話の息子として熱いエールが送られていた。これで日中関係がうまくいくと、ありがたくない期待をかけられていたのだ。
失望した理由は、河野外相がASEAN外相拡大会議で南シナ海に関して懸念を示す発言をしたからだという。王毅外相は河野外相の発言に対して「アメリカがあなたに与えた任務のように感じた」「率直に言って失望した」とストレートに言った。
それに対して河野外相が「中国には大国としての振舞い方を見につけていただく必要がある」と返している。
なかなか気骨があると思ったが、一方で河野外相は王毅外相に「今回のASEAN関連外相会合に来て、私のおやじを知っている方が大変多い。いろんな方からおやじの話をされ、その息子ということで、いろんな方から笑顔を向けていただいた。親というのはありがたいもんだなと改めて思った次第だ」と述べている。
就任直後の記者会見では、たしか「親と息子は違う」という主旨のことを言っていたと思うが、なぜこともあろうに王毅外相に「親というものはありがたい」などと言ってしまったのか。これでは河野談話を肯定したようなものではないか。
吉田証言の吉田清治氏長男との違い
吉田清治氏の長男は、「父が発信し続けた虚偽によって日韓国民が不必要な対立をすることも、それが史実として世界に喧伝され続けることも、これ以上、私は耐えられません。吉田家は私の代で終わりますが、日本の皆様、そしてその子孫は後に遺されます。いったい私は吉田家最後の人間として、どうやって罪を償えばいいのでしょうか」と言っている。
その葛藤の結果「父の謝罪碑を撤去する」ことを決意したのだという。そのことが『父の謝罪碑を撤去します』に書いてある。
この息子さんのような正義感と父親の残した虚偽の間で苦しむ姿こそが、真の気骨のある立派な人物だ。
河野太郎外相には、父親の出した「河野談話」が、どれだけ罪深いものであるかを反省し、それを撤廃する気概はないのだろうか。
日本の多くのメディアが報道している日中外相会談の詳細な会話を知るにつけ、河野外相に一抹の不安と失望を味わった日本人は、きっと、私一人ではないだろう。
日本が戦争を起こした罪自体は問われたとしても、私たちは子孫に虚偽の罪を残し続けていくべきではない。それは誰にとっても不幸なことだ。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。