北朝鮮の核開発を支える中朝貿易の闇
これはCIAと米財務省の分析担当官が長年言ってきたことと一致する。彼らが成功例として挙げるのが、05年のマカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)に対する制裁だ。BDAは北朝鮮の資金洗浄に利用されていると見なされ、BDAと取引関係にある諸外国の銀行も含め、アメリカの金融システムにアクセスできなくなった。
北朝鮮はこの制裁で窮地に陥った。BDAには北朝鮮政府高官の個人資金も預けられていたとみられるが、制裁により2500万ドル以上の資産が凍結されてしまったのだ。「あれはアメリカがやってきたなかで最もうまく標的を絞った措置だった」と、スチュアート・レビー元財務次官は振り返る。
その2年後、北朝鮮は核交渉の再開に応じるから、BDAに対する制裁を解除してほしいと求めてきた。ブッシュ政権はこの取引に応じた。だが、核交渉は何の成果ももたらさなかった。
それから10年、北朝鮮がアメリカを核攻撃する能力を手にする日は近づいている。楽観論者に言わせれば、「その日」は早くて3年後。一方、悲観論者は1年半後とみている。
いずれにしても、その時が来たらアメリカと同盟国は重大な決断を迫られる。金を理性のある核の持ち主として扱い北への攻撃を思いとどまるか。それとも金を「予測不能」と見なし、対北朝鮮先制攻撃とそれに伴うはずの悲惨な戦争を選択するか――。
こうした状況を考えれば、トランプ政権が中国政府の怒りを買うリスクを冒そうとも、北朝鮮を支える中国企業の取り締まりに乗り出そうとしている訳が分かる。北朝鮮をめぐる論議に参加しているホワイトハウス関係者が言うとおり、「それ以外にまともな選択肢はない」からだ。
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北朝鮮は「孤立とは程遠い」
制裁を発表した丹東銀行を除けば、トランプ政権は問題の10社について詳細を公表していない。とはいえ複数の米高官によると、今後予定する行動に関しては既に前例がある。
米政府に言わせれば、中国には北朝鮮の対外貿易・金融取引を手助けする数社の「窓口企業」が存在する。オバマ政権時代の昨年9月、米財務省はその1社である丹東鴻祥実業発展、および傘下の遼寧鴻祥集団を制裁対象に追加したと発表。併せて、米司法省が両社を刑事訴追した。
「理解すべき重要な点は、対北朝鮮貿易のより幅広い枠組みにおいて両社が独自の役割を果たしていることだ」と、C4ADSの報告書は指摘する。
米司法省の資料によると、丹東鴻祥は「中朝間の輸出入業務を手掛ける」貿易会社を標榜。グループ企業と共に、北朝鮮の政府組織に物資を調達する一方で、数億ドル相当の北朝鮮製品を買い付けて中国市場に流していた。その売り上げは、北朝鮮の核・ミサイル開発計画に不可欠なデュアルユース部品の購入資金として利用されたと、アメリカ側はみている。
丹東鴻祥は、北朝鮮にとっておそらくはるかに価値が大きい役割も果たしていた。米政府と国連の制裁対象である朝鮮光鮮銀行(KKBC)のフロント企業として、国際金融システムにアクセスすることだ。
KKBCは北朝鮮の核を含む兵器拡散の資金源とされ、09年以降グローバル金融システムから遮断されている。国内の主要銀行であるKKBCが国際市場で取引できなければ、北朝鮮は兵器開発用の部品や製品を提供する外国の業者に代金を支払うことができない。彼らは北朝鮮の通貨ウォンではなく、米ドルでの支払いを求めるからだ。