最新記事

米ロ関係

トランプの力を過信して米議会に負けたプーチン、次の一手

2017年8月8日(火)14時00分
マクシム・トルボビューボフ(米ケナン研究所上級研究員)

大統領の権威を守り、在任中の大統領に対する国民の支持を取り付けることは、ロシア政府の成功を判断する究極の尺度になる。ロシア政治の日課は、大統領の支持率や次の大統領選に関するテクニカルなデータを分析し、大統領が次の任期でどの政治家をキープし、出世させ、或いは切り捨てるかを憶測することの繰り返しだ。

ロシア国内のほとんどの組織が、行政府を保護するために存在しているのは誰もが知るところだ。それでも現在の米ロ関係を踏まえれば、この問題は熟考する価値がある。どんな政府であれ、最も重要な力を持つのは行政府だとみなすロシア流の考え方は、2016年の米大統領選に対するロシア政府の取り組みを理解するうえで重要だ。

ロシア政府や民間のハッカーが米大統領選に介入したかどうかについて、筆者にはいまだにさっぱりわからない。ただ、ロシア政府が昨年の米大統領選を重視していたことは間違いないだろう。

ロシア在住の熱心なアメリカウォッチャーの多くは、ロシア政府の目的は、次期大統領選になるのは確実とみられていた民主党候補ヒラリー・クリントンの足を引っ張ることであり、予測不能なトランプを大統領に担ぐことではなかったという見方で一致する。

たちはだかる「システム」

行政府が最も優位に立つというロシアの前提に照らすと、トランプの勝利ははなから非現実的でもあった。「アメリカのエリート」や「システム」はトランプのような候補を勝たせない、というのが2016年のロシアでは常識だったからだ。

米大統領選の直後、ブルームバーグの取材に答えた複数のアメリカウォッチャーは、トランプの勝利は予想外だったと認めた。彼らのほとんどは、プーチンは手放しで歓迎する前に、トランプがどのような出方をするか注意深く見守るだろうと予測した。

いずれにせよ、当時のロシア側の焦点は誰が行政府のトップである大統領になるかに絞られていた。米大統領選挙から8カ月以上経った今になってようやくロシア政府は、相手にしなければならないのは行政府だけではなく、米議会や情報機関、法執行機関、メディアなども含まれるのだと実感しているところだ。

たとえロシアがアメリカの行政府をハッキングしようと、或いは取り入ろうと、想像以上に複雑な「システム」という壁が立ちはだかる。ロシア政府の狙いは、対等な相手とみなすアメリカの行政府と取引することだった。だが期せずして、別の政府部門である立法府、即ち米議会を強化してしまった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中