孫政才失脚と習近平政権の構造
実は筆者は『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』の中で、この問題には触れなかった。法輪功側にも問題がなかったとは言えず、この問題に触れることに躊躇した。これに触れ始めれば、別の本になってしまう可能性があるのを懸念した。ただ、この問題に目をつぶることは出来ず、重慶の薄熙来問題を描いた『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』では、触れざるを得ないために、多少だが、描いている。
ところで江沢民が常務委員を2名増やして「9人(チャイナ・ナイン)」とさせた、その2名の職位に注目して頂きたい。
増やした職位は「中央政法委員会書記」と「中央精神文明建設委員会主任」だ。
胡錦濤政権二期目(2007年~2012年)で言うならば、前者は周永康で、後者は李長春である。二つとも、「法輪功対策」に関係した職位なのである。
江沢民は、朱鎔基の警告も聞かずに、法輪功信者の迫害に力を注いできた。
そのために周永康に公安関係の特権を与え迫害を正当化し、反対する者をすべて投獄してきた。法輪功は「精神性」という要素を持っているので、精神文明(イデオロギー)担当を増やし、李長春を当てた。
習近平政権「チャイナ・セブン」の権力構造
2012年11月、第18回党大会の時に、腐敗の温床になっている「中央政法委員会書記」の特権を奪うために、このポジションをチャイナ・ナインから無くし、「チャイナ・セブン」にした。その時点で、「周永康逮捕」は胡錦濤と習近平の間で合意されていた。
重慶市書記だった薄熙来の失脚は2012年3月なので、まだ胡錦濤政権だったが、次期政権は習近平政権になることは既定路線だったので、このとき既にチャイナ・ナインになっていた習近平(国家副主席)は、「薄熙来逮捕」に賛同していたし、薄熙来の後釜に孫政才を送り込むことにも賛同していた。
薄熙来が狙ったのは「習近平の座」だったので、習近平は胡錦濤の決断に感謝した。
一方、胡錦濤は反腐敗運動の指示を出しても江沢民派によって阻止され、10年間、屈辱の政権運営を強いられてきたことに懲りていたので、2012年11月の第18回党大会に於いて、全ての権限を習近平に渡し、その代わりに「反腐敗運動に徹底してくれ」と約束させたのである。
だから2012年11月8日、胡錦濤は中共中央総書記としての最後のスピーチに於いて「腐敗問題を解決しなければ党が滅び、国が滅ぶ」という名文句を残した。
そして新しい総書記に選出された習近平は11月15日、総書記としての最初のスピーチで「腐敗問題を解決しなければ党が滅び、国が滅ぶ」と、胡錦濤とピッタリ同じ言葉を述べて、胡錦濤との約束を果たそうとした。