最新記事

中国

中国人の収入は日本人より多い? 月給だけでは見えない懐事情

2017年7月21日(金)19時44分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

ファーウェイ日本法人が初任給40万円で新卒求人を出し話題になったが Philippe Wojazer-REUTERS

<ファーウェイ日本法人が日本の大手企業の2倍近い新卒求人を出していると話題になったが、実際のところ、一般の中国人でさえもう日本人より裕福なのだろうか?>

先日、中国企業である華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の日本法人が初任給40万円で新卒求人を出している件が話題となった。「中国企業の待遇は日本を超えているのか!」という驚きだ。

この驚きの前提には「中国の給与水準は日本よりもはるかに低いはず」という思い込みがある。確かに、中国の最低賃金は深圳市など最高ランクの自治体でも月給2100元(約3万4700円)程度で、日本とは大きな開きがある。もっとも、こうしたわかりやすい数字だけでは把握できないのが中国人の収入だ。

例えば深圳の工場ワーカーの場合、基本給は最低賃金と同水準だが、残業代や各種手当てを込みにすると少なくとも4000元(約6万6000円)は超える。ホワイトカラーのサラリーマンになると、月給5000~1万元(約8万2600~16万5000円)は普通で、そこに各種手当てや年末ボーナスがつく。中国の年末ボーナスは業績がよければ月給10カ月分など高額になることもざらだ。

さらに副業をやっている人も多い。特に近年ではシェアリングエコノミーの普及によって、以前よりもずっと楽に、空き時間をお金に変えられるようになった。その代表格が中国版ウーバー、滴滴出行だろう。いわゆるシェアライドのサービスで、自家用車を使ってタクシー業務を行うというものだ。

【参考記事】日本人ウーバー運転手が明かす「乗客マッチング」の裏側

バー店員と副業ドライバーで月収20万円

上海市で滴滴出行の副業をしているという男性に話を聞いた。夜はワインバーの店員として働きつつ、昼間は滴滴のドライバーをしているという。両者を合わせた月収は日本円にして20万円を超えるという。


「実は彼女が日本に住んでいるんです。もう10年になるんですが、中国には帰りたくないと話していて。将来をどうするのか決めなきゃいけない時期なんですよね。ただ中国には両親もいるし、友達もいるし、そのすべてを捨てて彼女のところに行くというのは簡単な決断じゃないですよね。

それから収入。彼女の月収は今30万円ちょっと。私の中国の月収と比べてもそんなに差はありませんよね。10年前、彼女が日本で働き出した直後は向こうが20万円ちょい。私が3万円ぐらいで、むちゃくちゃ格差があったんですけど、どんどん差は詰まっていますから。日本は定期昇給でしか給料が上がらないらしいじゃないですか。中国とは全然違いますね。

実は10年前、彼女と一緒に日本に行こうと思ってビザを申請したんですがダメでした。社会人として3年ぐらい働いてから日本の語学学校に入学するための留学ビザを申し込んだんですが、"修学意識が低い"とかいう理由ではねられたみたいです。社会人やってから勉強するのはダメなんですかね? 当時はがっかりしましたけど......。

あ、でも日本はいい国ですよね。何度も旅行しましたが、中国みたいにスピードが速くないので、ストレスなくのんびり暮らせて素晴らしいと思います」

収入面における日本の魅力は激減しているというわけだ。彼の話を聞いて思い出したのが、深圳の滴滴ドライバーとの会話だ。事業に失敗し運転手として食いつないでいると寂しげな表情だったが、よくよく話を聞いてみると億ションを2つ持っているとのこと。1軒は自分用、もう1軒は息子夫婦用だ。

中国の大都市部では不動産価格の高騰が激しい。収入面では日本人よりも少なくとも、保有する不動産資産では日本人以上という例はごろごろしている。

やはり、月収を聞いただけでは中国人の財布の中身はさっぱり分からないのであった。

【参考記事】流行語大賞から1年、中国人は減っていないが「爆買い」は終了

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇フランシスコの葬儀は26日、各国首脳が参

ビジネス

台湾輸出受注、3月予想下回る12.5%増 中国が減

ワールド

自公両党、物価高対策でガソリンの定額引き下げ提言 

ワールド

中国、ローマ教皇死去に哀悼の意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボランティアが、職員たちにもたらした「学び」
  • 4
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 5
    遺物「青いコーラン」から未解明の文字を発見...ペー…
  • 6
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 7
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 8
    「アメリカ湾」の次は...中国が激怒、Googleの「西フ…
  • 9
    なぜ? ケイティ・ペリーらの宇宙旅行に「でっち上…
  • 10
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中