北方領土交渉の「新アプローチ」は幻に
国後島のユジノクリルスクのロシアの庁舎前の風景(15年9月撮影) Thomas Peter/REUTERS
<領土問題解決の環境整備を図りたい日本だが、ロシアは態度を硬化させている>
日本の安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領は仲がいい。先のG20首脳会議に合わせて行われた両者の会談は、実に18回目。直前に行われた米ロ首脳の初会談が長引き開始こそ大幅に遅れたが、約50分の会談のうち15分は通訳を交えて両首脳だけで行われるなど、おおむね良好に進んだらしい。
平和条約や経済協力、北朝鮮問題などが話し合われ、9月にウラジオストクで開かれる東方経済フォーラムへの安倍の参加も確認された。これぞロシアに対する「新しいアプローチ」の成果、と安倍は自慢したいようだが、現実はそう甘くない。
昨年5月の日ロ首脳会談で発表されたこの新アプローチは、ハイレベルの政治対話や両国の交流促進に向けた「8項目の経済協力プラン」から成り、日本としては北方領土問題の解決に向けた環境整備につなげたい考えだ。また14年のウクライナ侵攻で国際社会から孤立したロシアが中国に急接近しているため、日本としては両国が反日で手を結ぶ事態を避けたいところだ。
【参考記事】ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由
現時点で日ロ両国は、北方領土での共同経済活動の実施で合意している。これは昨年12月の日ロ首脳会談の最大の成果とされる(この会談はG7による対ロ制裁が続くなか、オバマ米大統領の説得を無視する形で行われた)。この共同経済活動はロシアの法律ではなく、「特別な制度」の下で行うとされている。そうすれば日本はロシアの主権を認めることなく経済活動に参加でき、日本のプレゼンスを再構築することもできる。
この合意を、ロシアが主権問題で譲歩する意思の表れと捉え、ゆくゆくは両国による共同統治の道も開かれるのではないかと楽観視する向きもある。
3月には水産加工や医療、観光などを中心に、具体的な事業案の検討が始まった。6月下旬には日本の官民調査団が現地に派遣され、団長を務めた長谷川栄一首相補佐官は「有望な分野が多い」と述べたものだ。