最新記事

バレエ

生まれ変わった異端のダンサー、ポルーニンの「苦悶する肉体」

2017年7月19日(水)17時20分
スタブ・ジブ

ポルーニンが「テイク・ミー・トゥ・チャーチ」に合わせて踊るビデオはこれまでに2000万回以上視聴されてきた ©BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND POLUNIN LTD. / 2016

<英ロイヤル・バレエ団史上最年少で頂点に立ったセルゲイ・ポルーニンの挫折と新たな挑戦がドキュメンタリー映画に>

真っ白い倉庫風の建物で、優雅に回転したかと思えば、驚異的な跳躍を見せ、床に倒れ込み、身をよじって苦悶する肉体。バレエ・ダンサーのセルゲイ・ポルーニン(27)が踊るこの動画は、15年2月にYouTubeで公開されて以来、これまでに2000万回以上視聴されてきた。

全身全霊を込めて踊るポルーニンの上半身にはいくつものタトゥーが彫られていて、激しい呼吸とともに、膨らんだり縮んだりする。その卓越したテクニックと、恐ろしく軽々とした跳躍、そしてどこか粗削りな迫力は素人が見ても明らかで、約4分間目を離すことができない。

ホージアのヒット曲「テイク・ミー・トゥ・チャーチ」に合わせたその踊りは、なぜこんなに見る者の胸をキリキリ締め付けるのか。ドキュメンタリー映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』(日本公開中)は、そんな疑問に答えてくれる。

ウクライナ南部の町ヘルソンに生まれたポルーニンが、踊りを始めたのは8歳のときのこと。やがて首都キエフの国立バレエ学校に移り、さらに13歳で英ロンドンのロイヤル・バレエ学校に入学。卒業とともにロイヤル・バレエ団に入団し、瞬く間にソリスト、さらにはファースト・ソリストに昇格した。

最高位のプリンシパルに就いたのは19歳のとき。ロイヤル・バレエ史上最年少での昇格だった。だが、わずか2シーズン踊った12年1月、ポルーニンは突然退団の意向を表明した。

映画では、子供のときの練習風景からプロダンサーとしての活躍まで、ポルーニンの踊りをたっぷり堪能できる。だが、このドキュメンタリーの中核を成すのは、天才ダンサーゆえに彼が払ってきた犠牲と苦悩だ。

【参考記事】「日本のオシャレ人形と観光名所でパチリ」が流行の兆し?

孤独とプレッシャーの中で

バレエ学校の学費を払うためポルーニンの父親はポルトガルへ、祖母はギリシャへ出稼ぎに行き、家族はバラバラになってしまった。

13歳で言葉も分からない外国の学校に入ったポルーニンは踊りへの情熱を燃やすよりも、孤独と重圧に苦しんだ。成功しても心は空っぽだった。

「踊っているときは心が無になる」と、ポルーニンは語る。「ジャンプして宙に浮いている数秒だけは踊る喜びを感じる」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中