最新記事

風刺画で読み解く「超大国」の現実

ニューヨークの「暴露富豪」は劉暁波の次の希望になるか

2017年7月19日(水)07時10分
ラージャオ(中国人風刺漫画家:画)&李小牧(作家・歌舞伎町案内人:文)

© 2017 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN


nwj0725cover_150.jpg<ニューズウィーク日本版7月19日発売号(2017年7月25日号)「劉暁波死去 中国民主化の墓標」特集。重病のノーベル平和賞受賞者を死に追いやった共産党。劉暁波の死は中国民主化の終わりか、それとも――。この緊急特集号から、中国国外に住む中国人の間で話題を集めている富豪、郭文貴に関する記事を転載する>

最近、私はある動画に夢中になっている。1日に5~6時間も見入るので、妻に「うるさい」「子供の面倒も見てよ!」と怒られているが、それでもイヤホンを使って台所で必死にスマホにかじりついている。

動画の主はAV女優ではない(笑)。今、中国国外に住む全中国人が夢中になっているのは、ニューヨークに住む富豪の郭文貴(クオ・ウエンコイ)。もともとは中国政府の高官と懇ろな政商だったが、後ろ盾が失脚した後アメリカに「籠城」。ツイッタ―と動画で連日、高官たちの腐敗情報を暴露している人物だ。

「習近平(シー・チンピン)国家主席の側近が、反腐敗運動を仕切る王岐山(ワン・チーシャン)の汚職問題への捜査協力を依頼してきた」「王の家族は20兆元(300兆円)の資産を掌握している」......。腐敗高官の具体的情報まで公開する郭のせいで、今年秋に重要な党大会を控えた共産党と中国は上を下への大騒ぎになる、と思われていた。

しかし郭の「爆料(特ダネ)」は必ずしも思いどおりの成果を上げていない。

理由の1つは、郭が「腐敗した高官は糾弾するが、習近平は支持する」という態度を取っていること。習を攻撃対象にしていないのは、恐らく郭なりの保険なのだろう。もう1つは、郭の暴露した情報に間違いが含まれているらしいこと。王夫妻がアメリカに豪邸を持っている、と告発したが、本当はアメリカ人の所有だった。

彼を「吹牛(ほら吹き)」と批判したい気持ちも分かる。それでも、私は郭を支持する。「没有郭文貴、没有『新中国』(郭文貴がいなければ新中国はない)」と思うからだ。

先週、ノーベル平和賞受賞者で反体制活動家の劉暁波(リウ・シアオポー)が病気で死去した。中国の民主化にとって最後の希望の灯が消えた、とみんな嘆いている。ただ私は悲観していない。劉暁波が死んでも、第2、第3の郭文貴が生まれれば、いつか中国は変わる。

郭は暴露をせず、おとなしくアメリカで暮らすこともできた。新宿・歌舞伎町を生き抜き、日本で地方選挙にも挑戦した私は郭のような「火中取栗(火中の栗を拾う)」男が大好き。最近、私は「歌舞伎町の郭文貴」と自分を呼んでいる(笑)。

【参考記事】劉暁波の苦難は自業自得? 反体制派が冷笑を浴びる国
【参考記事】辛口風刺画・中国的本音:死の淵に立っても劉暁波を容赦しない「人でなし」共産党

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中