最新記事

朝鮮半島

ロシアが北朝鮮の核を恐れない理由

2017年7月18日(火)18時00分
クリス・ミラー(米イエール大学グランド・ストラテジーコース副所長)

ロシアのプーチン大統領は北朝鮮問題で中国と歩調を合わせる Alexander Zemlianichenko- REUTERS

<体制保障さえすれば金一族は合理的な考え方ができる人々だとロシアは考えている。安全が保障されれば、あとは北朝鮮とアメリカの間に冷戦時のような核抑止が働く>

アメリカの北朝鮮政策にとって、7月4日の米独立記念日はひどい1日だった。北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功しただけではない。同じ日にロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席がモスクワで会談。共同声明で、朝鮮半島の緊張の沈静化に支持を表明し、北朝鮮の核・ミサイル開発凍結を求めると同時にアメリカと韓国にも合同軍事演習を中止するよう求めたのだ。

アメリカは別のアプローチにこだわり続けている。ここ数カ月は中国が北朝鮮を説得して核・ミサイル開発をやめさせるよう、対中圧力を強めてきた。先週ドナルド・トランプ米政権が、中国には単独で北朝鮮の核問題を解決する能力もしくはやる気がないと見限ると、北朝鮮企業と取引をする中国の企業や個人に対して金融制裁を科した。

【参考記事】北朝鮮のICBM、アメリカの対北抑止施策揺るがす=川上・拓大教授

一方トランプ政権は北朝鮮問題の解決に向けて、ロシアの協力も引き出そうとした。5月に北朝鮮がロシア極東のウラジオストク港沖の海域にミサイルを着弾させた時は、こんな声明を発表した。「ミサイルはロシア領土の至近距離まで到達した。実際、日本よりロシアに近かった。ロシアが喜んでいるはずがない」

ミサイル着弾しても定期航路開設

ロシアは朝鮮半島が非核化すれば望ましいと思っているが、実際は北朝鮮のミサイルをそれほど懸念していない。ロシアは北朝鮮問題への唯一の解決策は北朝鮮と交渉し、金正恩政権の存続を保障することだとみている。北朝鮮の核開発に歯止めをかけることは支持するが、経済制裁には慎重で、体制転換には断固として反対する。その点がアメリカの思惑と異なり、国際的な取り組みを根本的に妨げる要因になっている。

【参考記事】半島危機:プーチン静観は、北朝鮮よりトランプのほうが危ないから

ロシアが対北朝鮮で融和政策を好む理由の1つは自国の利益のためだ。5月に北朝鮮がロシア極東のウラジオストク方面へミサイルを発射したのと同じ週、北朝鮮はウラジオストク港との間に定期航路を新設した。

北朝鮮は国家として自給自足を目指す一方、ロシアとの間に驚くほど多くの経済的な結びつきを持っている。2国は石炭や石油製品を調達し合い、とりわけ燃料不足に悩む北朝鮮側に恩恵を与えている。正確な統計はないが、北朝鮮出身の多くの留学生や数千人の単純労働者がロシアに滞在し、特に極東地域に集中している。現状では2国間の経済協力の規模は小さいが、もしアメリカが北朝鮮への経済制裁を解除し北朝鮮が経済開放に舵を切れば、ロシアとの貿易が拡大すると期待する専門家もいる。

【参考記事】英「ロシアに核の先制使用も辞さず」── 欧州にもくすぶる核攻撃の火種

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調

ビジネス

経済対策、事業規模39兆円程度 補正予算の一般会計

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中