最新記事

中国

次期国務院総理候補の孫政才、失脚?----薄熙来と類似の構図

2017年7月18日(火)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

香港あるいは中国大陸以外の多くの中文メディアは、孫政才はすでに中共中央紀律検査委員会の取り調べを受けていると報じている。

孫政才は、今年秋(おそらく11月)に開催される5年に1回の党大会では、必ずチャイナ・セブン(習近平体制での中共中央政治局常務委員会委員7名)の中に入るだろうことが確実視され、2022年の第20回党大会で党内序列ナンバー2か3に位置付けられて、2023年3月の全人代で国務院総理に就任することが、ほぼ確定していたような人物だ。

そのような大物が紀律検査委員会の取り調べを受けることになれば、それは逮捕を意味し、投獄を意味する。その見通しが立ってない限り、絶対に安易に「取り調べに入る」ことはない。

具体的に何をしたのかに関して断言することは困難だが、少なくとも重慶市の何挺元公安局長との共謀による「余毒に対する不作為」だけでは紀律検査委員会が取り調べに入ることはない。おそらくその不作為の中で賄賂が動いたか、夫人の胡穎が民生銀行の夫人倶楽部のメンバーであることと関係しており(あるいはその両方)、そこに根の深い腐敗問題が横たわっていることは確かだろう。

孫政才の腐敗体質は昔から

拙著『チャイナ・セブン <赤い皇帝>習近平』のp.202後ろから4行目に、(2014年時点で)孫政才に関して「どうも怪しさがつきまとう」と書いたが、これは「官位を金で買ったり」、「汚い金の取引をしたり」などの性格が彼にはもともとあることを指している。拙著ではその具体的な事例を詳述しているが、簡単に言うならば、劉雲山の息子との取引や、温家宝(国務院総理)の夫人への「貢ぎ物」(広大な土地)問題などがある。主として彼の背後には温家宝夫人がいたのであって、決して江沢民派といった流れではない。温家宝は農業問題を重んじていたので、(夫人の口利きで)孫政才を農業部長に抜擢している。いきなりの官界への仲間入りと凄まじい昇進だった。

腐敗のトップにいるのは江沢民なので、反腐敗運動を展開すれば、当然、江沢民とぶつかる部分が多くなる。しかし江沢民にはすでに力はなく、習近平が闘うべき敵は「人民」以外にはない。習近平に勝てる者は「人民の声」しかないのである。

彼には戦うべき政敵はいない。その意味でも、孫政才失脚は、権力闘争とは全く無関係である。

習近平がやっていることは、腐敗によって、共産党の一党支配体制が崩壊するか否かの闘いに過ぎない。

ラストエンペラーになりたくないだけだ。だから一帯一路やAIIBなど外に向かって突っ走り、人民の不満をかわそうとしている。

それを見誤ると、中国の大局を見間違え、日本の国益を損ねる。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社、7月20発売予定)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中