最新記事

中国

次期国務院総理候補の孫政才、失脚?----薄熙来と類似の構図

2017年7月18日(火)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

次期国務院総理候補だった重慶市の書記・孫政才が罷免された。薄熙来事件の時の王立軍・公安局長と同じように、今般も重慶市公安局長が直前に拘束されている。孫政才夫人も腐敗疑惑で取り調べ中。党大会に激震が?

重慶市の毒は消えない――孫政才失脚の陰に公安局長拘束

2012年1月に重慶市の公安局長だった王立軍が成都にあるアメリカ領事館に逃げ込んだ事件は、まだ記憶に新しい。それを皮切りに当時の重慶市書記だった薄熙来夫人の谷開来の殺人事件が浮かび上がり、そして2012年3月、遂に薄熙来は失脚し、のちに終身刑を受けている。

薄熙来に代わって重慶市書記に任命されたのが孫政才で、重慶市公安局長に任命されたのが何挺(かてい)だった。王立軍がアメリカ領事館に逃げ込んだ2カ月後の2012年3月のことである。このとき政法系列の全てを握っていたのは、チャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員会委員9名)の中の一人、周永康だった。第18回党大会は2012年11月に開催されているので、2012年3月の時点では、まだ胡錦濤政権が続いており、政法公安に関しては周永康が最大の権力を握っていた。

何挺は周永康の秘蔵っ子の一人。

何挺の任務は薄熙来が権力を乱用して大量に投獄された人たちの冤罪を晴らすことであり、薄熙来と王立軍に牛耳られた公安や暴力団などの「重慶の余毒」を一掃することにあった。しかし何挺はその任に忠実ではなかった。つまり汚職に染まり、何挺は今年3月31日に中央紀律検査委員会に連行されたのである。

何挺と孫政才は山東省の同郷。それを良いことに、何挺は常々「俺は孫政才とは一心同体だ!」と吹聴して回っていた。

妻の胡穎も汚職で取り調べ

孫政才の妻である胡穎(こ・えい)も、今年5月に腐敗問題で取り調べを受ける身となっている。

中国の大手銀行の一つである民生銀行には幹部のための「夫人倶楽部」というのがあり、通称「太太団」と呼ばれている。「太太(タイタイ)」というのは中国語で「奥さん」という意味だ。

すでに終身刑を受けているかつての中共中央政治局委員で中共中央弁公庁主任だった令計画の夫人・谷麗萍(こく・れいへい)もまた、この「夫人倶楽部」のメンバーの一人だった。ここは腐敗の巣窟だ。何か職位の高いポストに就いていることにして、高額の給料を支払いキックバックすることを基本としている。それも動くのは国費なので、関った者は皆、おいしい思いをする。

孫政才が失脚するのは時間の問題だったと言っていいだろう。

党大会に激震か?

7月15日、中国政府は重慶市中国共産党委員会の書記(トップ)だった孫政才が罷免されたことを正式に発表した。なんと言ってもポスト李克強として、次期(2023年)国務院総理の最有力候補とみなされてきただけに、中国の政界に激震が走った。今年の第19回党大会では大きな番狂わせがあるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル高官、トランプ氏の人質解放要求を歓迎 ガ

ワールド

ブラジル第3四半期GDP、前期比0.9%増 金融引

ワールド

韓国大統領が戒厳令、国会は「無効」と判断 軍も介入

ビジネス

米求人件数、10月は予想上回る増加 解雇は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 6
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 7
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 8
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 9
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 10
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 9
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 10
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中