最新記事

テクノロジー

LEDが照らし出す癌細胞撲滅への道

2017年7月12日(水)11時00分
ジェシカ・ワプナー

光を送り込んでスパイ活動させるようなものだとキムは言う Wilmot Cancer Institute/University of Rochester Medical Center

<LEDチップが放つ光に導かれて、緑藻由来のタンパク質が悪い細胞だけをピンポイント攻撃する免疫療法の最前線>

免疫系を使って癌をたたく方法は合理的に思える。体内に入り込んだ異物を発見し攻撃する免疫系の能力を生かし、癌という異物を殺せばいいはず......だが、現実は甘くない。

なぜうまくいかないのか、突破口はないのか。研究の末に免疫療法は急成長を遂げ、癌治療の大きな希望となっている。それでも延命効果や症状改善などが見られたのは、免疫療法を受けた患者の40%に満たない。

そんな状況に希望の光が差そうとしている。最近の研究によれば、光学技術を使って癌免疫療法の効果アップを図れるかもしれない。

癌免疫療法の根本的な問題は、免疫系のコントロールの難しさにある。免疫系が過剰反応すれば正常な細胞まで傷つけ、反応が弱過ぎれば効果がない。

しかも敵は手ごわい。腫瘍細胞は免疫細胞の監視・攻撃に対抗して免疫系を抑制し、耐性を獲得する。T細胞(白血球中のリンパ球の一種で免疫系の要)を補充する方法もあるが、免疫系が正常に機能しなくなり、臓器に取り返しのつかないダメージを与える恐れがある。

【参考記事】AIを使えば、かなりの精度で自殺を予測できる

米ロチェスター大学のキム・ミンス教授は、光に反応する藻を使って腫瘍に対する免疫反応をコントロールできないかと考えた。

藻が光に反応することは以前から知られている。今から210年前に微小緑藻類の細胞内部の運動が記録されて以来、緑藻が光合成を行う経路が解明されてきた。光が当たると陽イオンを細胞内に取り込む、緑藻由来のチャネルロドプシンというタンパク質が発見されたのが05年。12年には、その立体構造も解明された。

キムらはこれに目を付け、耳に悪性黒色腫(メラノーマ)のできたマウスにチャネルロドプシンを含むT細胞を注入。光学の専門家と共同で作成したLEDチップも体内に埋め込んだ。

マウスに装着した小型電池を使って腫瘍付近のLEDを点灯したところ、光の刺激でT細胞内のチャネルロドプシンが活性化。副作用なしでメラノーマをほぼ死滅させたという。

治療対象はメラノーマなど表皮付近の腫瘍に限られる可能性があり、人間でも成功するとは限らない。それでも専門家からは、光で制御できるキラー細胞を使って腫瘍だけを攻撃する治療法はそう現実離れした話ではないかもしれないとの声も聞かれる。

実用化されれば癌との闘いに強力な新兵器が加わりそうだ。

[2017年7月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アップル、見通しさえず株下落 第4四半期は予想上回

ワールド

米裁判所、マスク氏訴訟の手続き保留を決定 大統領選

ワールド

北朝鮮、31日発射は最新ICBM「火星19」 最終

ワールド

原油先物、引け後2ドル超上昇 イランがイスラエル攻
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中