「嫌われ者」ウーバーCEOの失脚が、IT業界を変える
カラニックの辞任を機にIT業界は「嫌われ者文化」に決別できるか Yu Lei-VCG/GETTY IMAGES
<ウーバーCEOカラニックの追放劇を機にセクハラや女性差別がまかり通るシリコンバレーが更生の道を歩み出す?>
配車サービス会社ウーバーの共同創業者トラビス・カラニックに下された突然の「退場命令」。その衝撃は、視聴者参加番組で下手な出場者に退場を命じるゴングのようにシリコンバレーに鳴り響いている。
女性を差別し、カネの亡者で社会的に無責任――そんなIT業界の風土づくりに加担してきた人間はカラニックだけではない。だが彼はたった1人でそうした欠点を全て網羅している。
ウーバー社内でのセクハラやいじめ、規制逃れソフト使用などの不祥事が相次ぐなか、カラニックは6月下旬、主要投資家からの圧力を受けてCEOを辞任。米IT業界随一の「嫌われ者」の失脚は、4つの意味でシリコンバレーのゆがんだ風土を立て直すチャンスとなるかもしれない。
まず、シリコンバレーに蔓延する女性への不当待遇を改めるチャンスだ。IT業界の女性の60%が職場でセクハラを受けた経験があり、3分の1が身の危険を感じたことがあるという。
女性はトップになれない、ベンチャーキャピタリスト(VC)の出資が受けられない、男性より給与が少ないといった不満も渦巻いている。なかでもウーバーの社風は女性にとって最悪の部類に入る。
ウーバーだけではない。6月下旬にはIT業界の情報サイト「インフォメーション」が、VCのジャスティン・カルドベックが女性起業家にセクハラを行っていたと報じた。カルドベックは休職の意向を表明し、「この試練を教訓に、ベンチャー業界に必要な変化の推進に協力する道を見つけたい」としている。
こうした動きに勢いづいて、著名投資家でビジネス向けソーシャルメディアのリンクトインの共同創業者リード・ホフマンは、VCのセクハラ行為に厳しく対処する業界規模の仕組みづくりを呼び掛けた。
【参考記事】ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか
期待される第2の変化は「ユニコーン」の衰退だ。
過去数年、シリコンバレーはユニコーン(未上場で企業評価額10億ドル以上のベンチャー企業)に夢中だ。そうした企業に多額の資金がつぎ込まれ、評価額が膨れ上がった結果、株式公開など必要ないという空気が蔓延。昨年、株式公開したIT企業は20社と09年以降最少だった。
IT業界のCEOでユニコーン戦略を最も声高に支持していたのがカラニックだ。彼の辞任当時、未上場のウーバーの評価額は700億ドルに達していた。