最新記事

シリコンバレー

「嫌われ者」ウーバーCEOの失脚が、IT業界を変える

2017年7月25日(火)12時30分
ケビン・メイニー(本誌テクノロジーコラム二スト)

ユニコーン戦略は限界に

だがこの風潮があらゆる問題の種になる。ごく一握りの人間(個人投資家や起業家)に、より多くの富が集中。企業の儲けは従業員まで回らず、一般市民はITブームから締め出される。

ユニコーン企業の評価額が株式公開で調達できる資金よりはるかに高くなった結果、株式公開で成長資金を調達することも、新たな出資者を探すこともできなくなって破綻するユニコーン企業も少なくない。

ウーバーの投資家がカラニックを追放した理由は多々あるが、報道によれば最大の動機は彼がIPO(新規株式公開)に消極的なことだった。IPOに否定的だった多くのCEOも既に考えを改め始めており、業界全体にとってプラスになるだろう。

第3の変化は「嫌われ者」信奉の終焉だ。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグをはじめ、IT企業の大半のCEOはまっとうな人物だ。だがアップルのスティーブ・ジョブズは伝説的な嫌われ者で、マイクロソフト全盛期のビル・ゲイツも誰もが認める嫌われ者だった。

IT業界の一部はいまだにジョブズやゲイツの経営哲学を信奉している。数年前、ウーバーのある投資家はカラニックについて「嫌われ者でなければ型破りにはなれない」と発言。その真偽を確かめるべく調査企業CBインサイツが行った世論調査でも23%がイエスと回答した。

【参考記事】日本人ウーバー運転手が明かす「乗客マッチング」の裏側

近年カラニックはシリコンバレー一の嫌われ者の座を満喫してきたが、本人のためにはならなかったようだ。同じ調査をいま実施すれば、イエスと答える人ははるかに少ないだろう。

最後に、型破りなリーダー像が否定されれば、企業風土も変わる。ウーバーは「型破り」精神を熱烈に支持して多くの敵をつくった。法を犯すことも、タクシー運転手を締め出すことも、自社の運転手を搾取することさえいとわなかった。「すぐに行動し、破壊しろ」というシリコンバレーの精神を体現していた。

だがウーバーのスキャンダルを機に、IT業界は社会の大半は強引な変化を好まないと気付き、自分たちは破壊よりも創造に力を入れるべきだと感じ始めている。カラニックの追放劇は、フェイスブックがフェイクニュース拡散の温床となっていた件などと相まって、IT企業に社会的責任を意識させる原動力となっている。

小さな兆しはある。フェイスブック、マイクロソフト、ツイッター、YouTubeの4社が「テロリズムに対抗するためのグローバル・インターネット・フォーラム」を立ち上げると発表したのもその1つだ。

変わるなら今だろう。「迅速に方向転換できる能力は起業家にとって誇り」だと、ある著名女性VCはカラニックの辞任を受けてブログに書いた。「IT業界の一部は今こそ方向転換する必要がある」

IT革命を生み出したシリコンバレーにはそのエネルギーがあるはずだ。

[2017年7月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中