「嫌われ者」ウーバーCEOの失脚が、IT業界を変える
ユニコーン戦略は限界に
だがこの風潮があらゆる問題の種になる。ごく一握りの人間(個人投資家や起業家)に、より多くの富が集中。企業の儲けは従業員まで回らず、一般市民はITブームから締め出される。
ユニコーン企業の評価額が株式公開で調達できる資金よりはるかに高くなった結果、株式公開で成長資金を調達することも、新たな出資者を探すこともできなくなって破綻するユニコーン企業も少なくない。
ウーバーの投資家がカラニックを追放した理由は多々あるが、報道によれば最大の動機は彼がIPO(新規株式公開)に消極的なことだった。IPOに否定的だった多くのCEOも既に考えを改め始めており、業界全体にとってプラスになるだろう。
第3の変化は「嫌われ者」信奉の終焉だ。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグをはじめ、IT企業の大半のCEOはまっとうな人物だ。だがアップルのスティーブ・ジョブズは伝説的な嫌われ者で、マイクロソフト全盛期のビル・ゲイツも誰もが認める嫌われ者だった。
IT業界の一部はいまだにジョブズやゲイツの経営哲学を信奉している。数年前、ウーバーのある投資家はカラニックについて「嫌われ者でなければ型破りにはなれない」と発言。その真偽を確かめるべく調査企業CBインサイツが行った世論調査でも23%がイエスと回答した。
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近年カラニックはシリコンバレー一の嫌われ者の座を満喫してきたが、本人のためにはならなかったようだ。同じ調査をいま実施すれば、イエスと答える人ははるかに少ないだろう。
最後に、型破りなリーダー像が否定されれば、企業風土も変わる。ウーバーは「型破り」精神を熱烈に支持して多くの敵をつくった。法を犯すことも、タクシー運転手を締め出すことも、自社の運転手を搾取することさえいとわなかった。「すぐに行動し、破壊しろ」というシリコンバレーの精神を体現していた。
だがウーバーのスキャンダルを機に、IT業界は社会の大半は強引な変化を好まないと気付き、自分たちは破壊よりも創造に力を入れるべきだと感じ始めている。カラニックの追放劇は、フェイスブックがフェイクニュース拡散の温床となっていた件などと相まって、IT企業に社会的責任を意識させる原動力となっている。
小さな兆しはある。フェイスブック、マイクロソフト、ツイッター、YouTubeの4社が「テロリズムに対抗するためのグローバル・インターネット・フォーラム」を立ち上げると発表したのもその1つだ。
変わるなら今だろう。「迅速に方向転換できる能力は起業家にとって誇り」だと、ある著名女性VCはカラニックの辞任を受けてブログに書いた。「IT業界の一部は今こそ方向転換する必要がある」
IT革命を生み出したシリコンバレーにはそのエネルギーがあるはずだ。
[2017年7月25日号掲載]