最新記事

韓国政治

文在寅が2カ月経ってもまだ組閣を終えられない理由

2017年7月14日(金)20時35分
前川祐補(本誌記者)

組閣に苦しむ韓国の文在寅大統領 Kim Hong-Ji-REUTERS

<閣僚人事をめぐって与野党が対立。いまだに4閣僚が決まっていないが、その理由は新大統領自身というより、人事公聴会の制度にあった>

韓国の新政権にとって、閣僚人事はいつからか鬼門になったようだ。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は7月13日、国防相に元海軍参謀総長の宋永武(ソン・ヨンム)を任命した。だが宋の起用をめぐっては、宋が過去に軍事関連業者から高額な顧問料を受け取ったことや飲酒運転を隠蔽した疑惑が浮上したことから、野党が人事公聴会で猛反発していた。国会議長の丁世均(チョン・セギュン)も文に再考するよう人事案を突き返していたが、文が強行指名した形だ。

閣僚人事をめぐっては、これ以前にも娘の二重国籍などのスキャンダルが指摘された外相候補を文が強硬指名した経緯があり、与野党の亀裂が深まっていた。

何とか国防相の任命にこぎつけた文だが、いまだに雇用労働相など4閣僚の任命が終わっていない。そのため政権発足から2カ月以上が経過しても組閣が終わらない状況にある。

なぜ文はこれほど組閣に苦しむのか。

閣僚人事をめぐる与野党のバトルは、朴槿恵(パク・クネ)前政権でも見られた。朴が指名した閣僚候補が公聴会でことごく野党から「ダメ出し」され、政権発足時までに任命手続きを終えた閣僚が1人もいないという異常事態を引き起こしたほどだ。

ただ、与野党の人事バトルは、必ずしも韓国政治の「伝統」ではない。

「かつては新政権発足から100日程度のいわゆる"ハネムーン期間"の間、選挙に負けた野党は大人しくしているという暗黙の了解があった」と、韓国政治に詳しいアジア経済研究所東アジア研究グループ長の安倍誠は言う。「だが最近は与野党の対立が激しくなっており、候補に少しでも瑕疵があれば野党は徹底的に叩いて最初から主導権を握ろうとする状況がある」

変化の兆しが現れたのは、対北朝鮮政策をめぐり親北のリベラル派と強硬姿勢を崩さない保守派の争いが顕著になり始めた盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(2003~2008年)以降。安倍によれば、この対立状況を制度的に決定付けたのが2005年の国会聴聞会(人事公聴会)法の改正だ。それまで閣僚候補の中で公聴会を経る義務があったのは首相だけだったが、この改正により全閣僚候補を対象としたものだ。

ただし、首相以外の閣僚候補について、国会はあくまで大統領に所見をまとめた報告書を提出することしかできず、承認の権限はない。つまり文の「強行」任命は法的に認められているわけだが、そうすると野党が反発し泥沼の人事バトルに発展する――。本来は候補者の職務遂行能力や適性を測るために行われるはずの公聴会だが、今や与野党によるスキャンダル合戦の戦場と化してしまっている。

【参考記事】トランプに冷遇された文在寅が官僚を冷遇する

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル首相がハンガリー訪問へ、ICC逮捕状無視

ビジネス

日米、過度な為替変動が経済に悪影響与え得るとの認識

ワールド

ミャンマーの少数民族武装勢力、国軍が大地震後も空爆

ワールド

トランプ政権、米政府と契約の仏企業に多様性プログラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中