世界金融危機から10年 景気回復し完全雇用でも賃金上昇鈍る「謎」
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7月7日、世界金融危機の発生から10年を経た米経済について、エコノミストの間では労働市場は完全雇用の状態にあるとの見方が大勢だ。しかし、それにもかかわらず賃金は上昇率が鈍るという「謎」に覆われている。米カリフォルニア州で開催されたジョブフェアで2014年10月撮影(2017年 ロイター/Lucy Nicholson)
世界金融危機の発生から10年を経た米経済について、エコノミストの間では労働市場は完全雇用の状態にあるとの見方が大勢だ。しかし、それにもかかわらず賃金は上昇率が鈍るという「謎」に覆われている。
米労働省が8日公表した6月雇用統計は時間当たり賃金の前年比伸び率が2.5%にとどまり、景気の好調が続いて労働力が不足しているというのに、過去2四半期は加速するどころか足踏みが続いた。
賃金上昇の鈍さは先進国に共通した現象で、多くの国では米国よりも景気回復のペースが遅い。
これまで何十年もの間、賃金上昇をけん引してきたのは労働生産性の改善だった。しかし足元では、活発な投資や技術革新によって働き方が根本的に変わる兆候が見当たらない。米国の生産性の伸び率は2005年以降に平均1%と、1990─2004年の水準の半分に落ち込み、過去5年間の年間伸び率は0.5%にとどまっている。
JPモルガンのエコノミスト、マイケル・フェロリ氏は6月雇用統計発表後に「賃金上昇が芳しくない理由は、影のスラック(緩み)、グローバル化に伴う交渉力の低下、脱組合化、オートメーション化など枚挙にいとまがない。しかし悩ましいのは、少なくとも雇用統計の平均時給でみると、2015─16年に明らかに加速していた賃金上昇がこの2四半期になって鈍ったことで、これは不思議だ」と記した。
米国は雇用者数からみると、連邦準備理事会(FRB)が年内追加利上げが可能な軌道にあるというのがエコノミストの一般的な見方だ。しかし賃金の伸びが鈍いため、政策金利の引き上げ幅は自ずと限定される。個人消費が7割を占める米経済の長期的な見通しを懸念する声も上がっている。
国際通貨基金(IMF)のデータによると、先進国では国民所得のうち労働者に分配される比率は1970年に55%だったが、2015年には40%弱に低下した。技術の変化やグローバル化が主因だ。