「休みたいから診断書をください」--現役精神科医「うつ病休職」の告発
Newsweek Japan
<うつ病が急激に増えており社会問題化しているが、実際にはうつ病がなんらかの「理由」として使われているケースが多いと、『うつ病休職』の著者。そもそも、うつ病はストレスによって起こるものという認識も間違いだという>
『うつ病休職』(中嶋聡著、新潮新書)というタイトルだけを見ると、うつ病で悩む人のことを取材した深刻なドキュメンタリーのようにも思える。ところが本書は、そのような角度からこの病気を扱ったものではない。
著者はクリニックを開業している現役の精神科医。最近、うつ病が急激に増えており、それが深刻な病気であることを認めつつも、「現在"うつ病"とされているもののすべてがそうかといえば、決してそうではない」と主張しているのだ。
平たくいえば、本当のうつ病で深刻に悩む人がいる一方で、うつ病がなんらかの「理由」として使われていることも否定できないという"告発"である。
最近、診察していてとくに強く感じることがあります。それは「会社に行くのがしんどくなった。上司に話したら『それなら病院に行って診断書をもらってこい』と言われた。休めるように診断書を書いてほしい」といった患者がとみに多くなっていることです。(中略)
聞いてみると、「職場でストレスがある」と言います。医師から見ると、それは仕事をする以上はあたりまえのもので、それほどのストレスとも感じられない場合が多い。しかし本人は、その影響として抑うつ(落ち込んだ気持ち)や不安、イライラなどを強く訴え、「このような状態では仕事ができそうもない。休みたいので診断書を書いてほしい」と希望します。(26~27ページより)
診断書を希望する状況もさまざまで、他にも「上司にパワハラされている。病気ということにして診断書をもらって休みたい」とか、「退職したいと言ったら『診断書をもらってこい』と言われた」といったものもあるのだとか。
しかし医師の立場から判断すれば、前者の多くは診察しても病気といえるものではなく、単に労務問題を医療問題にすり替えようとしているだけ、というケースが多数。後者の理由はなかなかわからないものの、退職後も傷病手当金がもらえたり、失業手当がすぐにもらえるといった事情があるらしい(ちなみにこの考え方の確実性は、第三章で具体例とともに立証されている)。
また、うつ病に対して十分な対策をとっていないと、場合によっては企業が安全配慮義務違反もしくは使用者責任を問われるため、(「主治医が大丈夫だと言っている」と本人から聞かされていたとしても)休職などはっきりした形で対策をとっておいたほうがいいという企業側の事情も考えられるのだそうだ。
二〇〇〇年に電通事件(自殺)、二〇〇七年に積善会事件(自殺)、二〇一四年に東芝事件(解雇)の判決が下されました。いずれも、企業の精神衛生に関する安全管理責任が断罪され、企業にとって非常に厳しい判決が下されました。
これらの判決に企業も、社会全体も、影響というより衝撃を受け、メンタルヘルスに関する安全管理体制を整備しなくてはならないという機運が高まりました。(36ページより)
さらに昨年には、電通の女性新入社員が長時間労働を苦にして自殺し、うつ病による労災が認められるという「第二の電通事件」も起きている。それらは確かに、企業の安全管理体制の整備につながってきたのだろう。しかし著者は、ことはそれほど単純ではないと指摘する。その根底にあるのは、本書の主題である「診断書問題」だ。