最新記事

BOOKS

「休みたいから診断書をください」--現役精神科医「うつ病休職」の告発

2017年7月16日(日)07時15分
印南敦史(作家、書評家)

企業は社員のメンタルヘルスの問題に神経質になり、必要以上の不安を抱えている。そこでなにか問題があると(問題が起きそうな予兆があった場合も)、「一度心療内科に行ってきなさい。診てもらって診断書をもらってきなさい」となるということだ。

しかもそのおおもとには、うつ病の診断をめぐる別の問題も絡んでいる。「うつ病」と「抑うつ反応」が混同されることによって、うつ病がストレスによって起こる病気の代表のように誤解されているというのだ。そのことについては後述するが、先にクローズアップさせておくべきは、うつ病が2010年代になって、1980年代の約5倍に増えたという事実である。


その第一の理由は、DSMという診断基準(一九八〇年に現在のDSM-5の雛形であるDSM-IIIが発表された)の導入です。その結果、一九九〇年代には、一九八〇年代の二倍に増加しました。
 さらにもう一つ、うつ病の激増をもたらした要因は、SSRIと呼ばれる新型の抗うつ薬の発売です。SSRIは従来の抗うつ薬に比べて副作用が少なく、使いやすい薬です。それゆえ、うつ病の診断を厳密にしなくても抑うつ状態一般に使うことができます。これが発売された一九九九年を境に、うつ病はさらに急激に増加したのです。(90ページより)

特に注目すべきはDSMだと感じた。この診断基準は、当てはまる診断項目を数えることによって行う量的なもので、「経験ある精神科医が感じる質的な差異」などという曖昧なものを排除することを長所にしているのだそうだ。そのため、うつ病の定義ががらりと変わり、「疾患」であるうつ病以外のものも、たくさんうつ病に含まれることになったというのである。


長年精神医療に携わってきた私から見ると抑うつ体験反応にすぎないものが、現代の基準ではほとんどが「うつ病」ということにされてしまっています。「うつ病が軽症化した」という言い方もよくなされますが、これも同じ理由によります。見せかけの軽症化であり、うつ病そのものは決して軽症化していません。(92ページより)

そしてもうひとつ、記憶にとどめておく必要がありそうなことがある。「うつ病はストレスによって起こるもの」という認識は一般的だが、それは間違いだということ。


「ストレスによって起こる」と因果関係をはっきり説明できるものは、うつ病ではありません。それは抑うつ反応です。
 うつ病は、一見ストレスによって起こっているように見え、または本人がそのように感じていても、専門医が診ればストレスでは説明できない点が必ずあります。ストレスは、発症のきっかけや悪化要因として関係しているにすぎません。逆に言えば、ストレスで説明がつかない点があることが、うつ病であるための条件(必要条件)なのです。
 抑うつ反応は了解可能で、うつ病は了解不能であること――この点が最も重要な鑑別点です。 抑うつ反応は、誰もが時と場合によって陥る、正常な反応です。(中略)「こんなにひどいストレスが続いたら誰でもなる」のは、うつ病ではなく、抑うつ反応なのです。(96~97ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国外相、イラン指導者殺害や体制転換の扇動「容認で

ワールド

OPECプラス8カ国、4月に増産開始で合意 イラン

ワールド

イラン首都照準に2日目攻撃、トランプ氏は反撃に警告

ワールド

プーチン氏、ハメネイ師殺害は道徳規範と国際法に違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 3
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 4
    「努力が未来を重くするなら、壊せばいい」──YOSHIKI…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「一人旅が危険な国」ランキン…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 8
    ウクライナが国産ミサイル「フラミンゴ」でロシア軍…
  • 9
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 10
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中