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「休みたいから診断書をください」--現役精神科医「うつ病休職」の告発

2017年7月16日(日)07時15分
印南敦史(作家、書評家)

うつ病が「病気」であるのに対し、抑うつ反応は「苦悩」であると著者は表現している。


 病気は「襲われる」もしくは「蒙(こうむ)る」ものです。主体はそれに対して受身です。襲われた(蒙った)主体は、助けを求めるしかありません。そして、病気が「治る」までは、「病人」という立場(「病者役割」)を認められ、従って必要な休養をとる権利を認められるべきです。
 これに対して苦悩は、「味わう」もしくは「巻き込まれる」ものです。主体はその主人です。味わっている(巻き込まれている)主体は、助けを求めることもできるし、求めないこともできます。それは主体の選択です。それに応じて必要な援助を受けることができますが、それを使いながら苦悩を軽減するのは、主体の責任に属することです。(166ページより)

一方、その治療を依頼された医師には、主体的に振る舞う責任が生じる。しかし苦悩においては、医療機関を訪れるかどうかを含め、患者が「助けを求めるかどうか」を選択するものだ。この場合、医師は患者が依頼する範囲内で援助(治療)を提供するしかない。ここに、この問題の難しさがあるのだろう。

しかも、精神科医も人間。現実の変化に戸惑い、悩んでいて当然だ。助けてほしいと訴える人に手を差し伸べるのが仕事だとわかっていても、「病気で仕事ができないというほどではないから診断書は書けない」と、意地悪のように見えることをしなければならないこともある。

だから、葛藤もあるという。その気持ちも痛いほどわかる。いずれにしてもすぐに解決できるような問題ではない。


『うつ病休職』
 中嶋 聡 著
 新潮新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。

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