この夏も『パイレーツ・オブ・カリビアン』が大暴れ
しかし、本作の最大の弱点は主演のデップだ。これまでの作品で見せたシャープさは影を潜め、自分自身のパロディーに成り下がってしまった。わざとらしく悲鳴を上げ、泥酔し、運だけでピンチを切り抜けるシーンがとにかく多い。これでは頭は切れるがどこかトボけたミステリアスな海賊というよりも、『アリス・イン・ワンダーランド』のマッドハッターが海賊のコスプレをした感じだ。
幸い、今回もラッシュがキャプテン・バルボッサ役で登場。03年の1作目以降は地味な扱いだったが、今回は出演シーンが大幅に増え、一番の見せ場にも絡む。百戦錬磨のバルボッサは相変わらず狡猾な策士だ。海の覇権を守ろうとサラザールと怪しげな契約を結んだりもするが、優しい一面も見せる。
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新たなヒロインに注目
3作目の『ワールド・エンド』で恋に落ち、結婚したウィル(オーランド・ブルーム)とエリザベス(キーラ・ナイトレイ)が、10年ぶりに登場するのもうれしい。
彼らの息子ヘンリー(ブレントン・スウェイツ)と行動を共にする天文学者カリーナ役のカヤ・スコデラリオも光る。男だらけのキャストの中で一歩も引かず、鼻っ柱が強く皮肉屋の女性を魅力的に演じた。
スタッフもいい仕事をしている。作曲家のジェフ・ザネリはハンス・ジマーによるおなじみのテーマを生かしつつ、趣のある音楽を作り出した。撮影監督のポール・キャメロンはファンタジー色の強い場面で才能を遺憾なく発揮。お化けのサメがスローモーションで宙を飛ぶシーンには、思わず見とれてしまう。
つまり『最後の海賊』はどこを取っても合格点。要素を盛り込み過ぎた前2作と違って、シンプルな復讐劇にまとめたのも賢明だった。
銀行強盗やスパロウが危機一髪で処刑を逃れる場面など、印象的なアクションシーンも盛り沢山。第1作の大人っぽい味わいにこだわるファンには物足りないかもしれないが、最後まで楽しめるのは確実だ。
[2017年7月 4日号掲載]