ドゥテルテ比大統領就任1年で最大の試練、 ISとの戦闘に健康不安説も
今年72歳という年齢を考えれば、多忙からしばらく休養期間が必要になり、国民やマスコミの前で時に長時間に及ぶ演説などを回避したことはありえることで、大統領の健康問題とは直接結びつかず、単に少しペースダウンして充電していたのでは、との見方が有力だ。
もっとも一部マスコミからは「大統領は最大の懸案事項であるミンダナオでの軍事作戦に集中するために他の公務をキャンセルしたのではないか」との観測もでている。
戦闘終結が喫緊の課題
そのミンダナオ島での武装勢力「マウテグループ」との戦闘は戦闘開始直後の5月23日にドゥテルテ大統領が同島一帯に戒厳令を布告して掃討作戦に乗り出しているものの、解決のメドは一向に立たず、長期化の様相を呈している。
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これまでの戦闘で同グループやフィリピンの他の武装勢力に加えてインドネシアやマレーシアなど東南アジア各国のイスラム武装勢力のみならず中東からISIS要員がマラウィでの戦闘に参加していることが確認されている。
ドゥテルテ大統領は「この戦闘はもはやフィリピン国内の武装勢力とではなくISIS掃討のテロとの戦いである」と訴えている。
このため米軍からの武器供与、一説では米特殊部隊の支援を受けているほか、オーストラリア軍からAP3C哨戒機の派遣、中国からの資金と武器の供与を受けて作戦を継続している。さらにインドネシア、マレーシアとフィリピン3国の海軍艦艇による海域パトロール、空軍機による哨戒飛行もすでに始まるなどフィリピンだけではなく、東南アジア関係国、国際社会の支援を受けて作戦は進められている。
しかし、当初は独立記念日の6月12日までに、その後はイスラム教の断食月の明ける6月25日までに、としていた作戦終結のメドはいずれも実現せず、6月30日の大統領就任1周年にも到底間に合いそうもない。
これまでにマラウィでの戦闘では市民44人、国軍兵士71人、武装勢力299人が死亡する一方で依然として同市には市民100~500人が取り残され、人間の盾として危険にさらされているという。
就任当初から強力に進めてきた超法規的殺人をも厭わない麻薬犯罪撲滅政策、親中反米の姿勢で経済支援を天秤にかけた南シナ海の領有権問題なども現在は二の次で、とにかく戒厳令まで出して臨んでいるミンダナオ島での戦闘を一刻も早く終結することがドゥテルテ大統領の最大のそして急務の課題となっている。戒厳令が長引けば、マルコス大統領時代の戒厳令下での数々の人権侵害への懸念も生まれかねず、ドゥテルテ大統領はまさに最大の試練を迎えている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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