奨学金が地獄と化しているのは昔の奨学金とは違うから
もちろん本来であれば、当人たちの自己防衛以前に、奨学金制度の抜本的な改革が必要だ。しかし、それだけでは不十分だというのだ。だから、奨学金制度見直しの議論と並行し、いま現在、奨学金制度で追い詰められている人を救済することが必要だという考え方である。
そこで本書においても後半のかなりのページ数を割いて、さまざまな救済手段が紹介されている。現時点で返済に困っている人、またはこれから奨学金を利用しようとしている人も、目を通しておいたほうがいいだろう。
学費と奨学金の問題は、もはや一部の人の問題ではなく、中間層にまで広がっています。そうであれば、最終的には、皆が能力に応じて負担を分かち合うことを目指すべきだと思います。しかし、本書で紹介したように、生活上の困難を抱える人がこんなにも増えてしまった状況では、これ以上の負担を求めることには無理があります。困難ある人をさらに追い詰めることにもなり、市民の合意も得にくいと思います。そこで、まずは実現可能な制度改革を優先させ、少しでも余裕を作ることから始めるべきだと思います。(215ページより)
私の息子は、この春に大学を卒業し、社会人になった。しかし大学進学に際しては、やはり奨学金を借りなければならなかった。本書で紹介されている人たちほど(現時点で)追い詰められてはいないとはいえ、そうしなければ進学させられなかったことには、親として申し訳なさも感じる。
しかしいずれにせよ、私がそうであったように、本書に書かれていることはまったく他人事ではないのだ。度合いこそ違えど、なんらかの形で大多数の親、そしてその子たちに関わってくる問題だということ。だからこそ、奨学金制度についてはきちんと知っておかなければならないのである。
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。