最新記事

EU

ブレグジットでEUが経験する「5つの変化」

2017年4月1日(土)08時29分

 3月28日、英国のメイ首相は29日にEU基本条約であるリスボン条約50条を発動し、EUに対して正式な離脱通知を行うが、これにより英国のみならず、EUも変わることになる。写真は、離脱通知を祝うイベントに参加した男性。ロンドンで29日撮影(2017年 ロイター/Peter Nicholls)

英国のメイ首相は29日、欧州連合(EU)基本条約であるリスボン条約50条を発動し、EUに対して正式な離脱通知を行う。これにより、英国のみならず、EUも変わることになる。

以下に、その5つのポイントを挙げる。

<EU予算:資金はどこへ>

EU予算は加盟国の財政支出のわずか2%を占めるにすぎない。しかし東欧では、振り当てられる割合は大きくなる。ポーランドの予算に占める割合は約8%、ブルガリアでは5分の1近くに上る。

英国が離脱すれば、EUは純受益国である加盟国に割り当てる資金が約6分の1減ることになる。そうなると、2021年から始まる7年間の財政計画を巡り、域内で東西対立が発生する可能性がある。

短期的には、離脱にあたり英国が何を負担するかを巡って同国とバトルが繰り広げられるだろう。英国政府は、研究費など主要なEU予算の一部にアクセスできるよう拠出の継続を選択するかもしれない。だが農業助成金など多額な分野は、根本的に見直される可能性がある。

<力の均衡:見捨てられる英友好国>

英国は欧州議会に持つ12%の自国票を駆使することによりEUの歳出を抑制し、自由貿易を推進してきた。英国のEU離脱は、北欧諸国やオランダのような、英国より小さな北部の友好国を心配させている。

英国が加盟入りを支援してきたより貧しい東欧のEU諸国は、ドイツとフランスが低賃金労働者に対する障壁を強化したり、元共産主義国が嫌う連邦的なEU権限を強化したりする可能性を危惧している。とりわけバルト諸国のようなEU加盟を希望する国々は、EUのさらなる拡大を懸念する裕福な西欧諸国に立ち向かう友好国を失うことになる。

ユーロを導入している19カ国にとっては、欧州議会内において主な障害が取り除かれ、非ユーロ圏を票でどうにかしのぐことが可能となる。ポーランドとスウェーデンが主導する非ユーロ圏は、ユーロ圏がEUの政策を決めるのを阻止すべく、ユーロ圏のなかで反旗を翻す大国を必要とするだろう。

フランスはEU加盟国で唯一の核保有国であり、国連安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国である。英国のEU離脱により、米国主導の北大西洋条約機構(NATO)以外にEUの防衛協力を拡大するというフランスの野望に断固反対する国もいなくなる。防衛はすでにEUの政策課題として再び浮上している。

一方、ドイツは、その経済力によって欧州の支配者として見られたいのか、それとも英離脱後のEU市民の約5人に1人が存在する国として見られたいのか、2つの思いに揺れている。特に、EUを共に創り、経済的に苦しむフランスといかにバランスを保つかについて不安を抱いている。

<世界のなかのEU:影響力低下>

EUは、米国や他の英語圏との間を取り持つ大国を失う。歴史ある外交力と軍事力に裏打ちされた英国の洞察力と、中国やロシアや中東の大国に対する同国の影響力は、EUにとっても有益だった。移民問題で大きな懸念の対象となっているアフリカにおいては、英国による援助予算や他の影響力は主要な役割を果たしてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中