最新記事

フランス大統領選

フランス大統領選3位に急浮上、左翼党メランションの脅威

2017年4月13日(木)17時30分
エミリー・タムキン

討論会で人気上昇、キャスチングボードを握ったメランション Lionel Bonaventure-REUTERS

<首位の極右ルペンに対し、3位は急浮上した極左のメランション。フランスの有権者はなぜ今になって共産主義者を支持し始めたのか>

第1回投票まで2週間を切ったフランスの大統領選は、とにかく波乱続きだ。

一時は最有力候補と目されたフランソワ・フィヨン元首相はスキャンダルに巻き込まれ、かたや数年前までほぼ無名だった中道派で親EUのエマニュエル・マクロン前経財相が注目候補に躍り出た。最近の世論調査でリードするのは、つい先日も第2次大戦中にパリで行われたユダヤ人一斉検挙についてフランスに国家としての責任はないと発言して物議を醸した、極右政治家のマリーヌ・ルペンだ。決選投票に進出するのはマクロンとルペンというのが大方の予想だったが、土壇場で2人を猛追する候補者が現れた──ジャンリュック・メランション(65)だ。

メランションは「社会主義の真の体現者」とか「フランスにおける共産主義の最後の巨頭」と見られていると、チェコのプラハに拠点を置くシンクタンクEUROPEUM研究所のマーティン・ミシュロは言う。

左翼党を率いるメランションを支持するのは、現状に不満を抱える労働者階級だ。そのなかでも、カリスマ性のない与党・社会党の候補ブノワ・アモン前国民教育相に投票する気がなく、左派政党に対して怒り心頭でもルペンだけは当選させたくないという有権者のハートを、メランションはがっちり掴んだ。

今になって熱狂的ファンが増えた理由の1つは、全ての候補者が参加した初のテレビ討論会で、彼がカリスマ的な演説を披露して脚光を浴びたからだとミシュロはみている。ルペンに向かって公然と「この場にいるべきではない、国民の恐怖を無駄に煽っている、既存の組織に所属する汚職政治家だ」などと批判したことを、多くのフランス人がよくぞ言ってくれたと好意的に受け止めた。

憧れはロシア、NATOは脱退

メランションは既存秩序が嫌いだ。メディアに対しても批判的で、有権者に語りかける手段として自作のYouTube動画を好んで使う。公約ではフランスの政治組織の改革に重点を置いている。ミシュロによると、メランションは反米・社会主義政権を率いたベネズエラのウゴ・チャベス前政権や共産主義キューバのカストロ兄弟の長年の支持者。しかもヨーロッパに軍事同盟(NATO)が存在する目的は、憧れのロシアと戦争するためだと信じている。

メランションはユーロ懐疑派なので、市場では「フレグジット(フランスのEU離脱)」を懸念する声もあるが、彼が目指しているのはEU離脱ではなく、労働者がはっきりとした恩恵を受けられる制度に改めることだと、カーネギー・ヨーロッパのピエール・ヴァモンは言う。ただしメランションが大統領になれば、フランスはNATOから脱退する。有権者には不人気な政策だ、「いま人々が拍手喝采でメランションを支持しているのは、選挙戦で彼がよくやっていると思ったからだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中