「成立するはずのない」予算案を出してトランプがもてあそぶ政府閉鎖の危機
思わぬところで政府閉鎖の危機
それどころかトランプ政権は、さらに「不毛な戦い」に踏み込もうとしている。トランプ政権は、2018年度(2017年10月~2018年9月)の予算案を発表すると同時に、今年9月までの2017年度の補正予算案を提案している。2018年度予算案と同様に、国防費の増額とそれ以外の分野での歳出削減が提示されただけでなく、これも議論を呼んでいるメキシコ国境への壁の建築費用が盛り込まれた。どう考えても、民主党議員の賛同は得られそうにない内容だ。
問題なのは、補正予算に関する議会審議の紛糾が、政府機関の閉鎖につながりかねない点である。実は米国では、昨年10月から始まった2017年度の予算が成立しておらず、政府機関は暫定予算の下で運営されている。暫定予算は4月28日で期限が切れるため、それまでに議会が本予算を成立させられなければ、政府機関は閉鎖に追い込まれてしまう。
トランプ政権が補正予算の成立にこだわれば、議会の審議が紛糾し、そのあおりで2017年度予算の成立が期限に間に合わないリスクが浮上する。そもそも2017年度予算の大枠については、前オバマ政権下の議会において、民主党と共和党の間で合意が出来ている。それにもかかわらずトランプ政権は、わざわざ争点を作り出し、政府閉鎖の危険を冒そうとしている。
不毛な戦いに時間が費やされる一方で、肝心の減税やインフラ投資に関する議論は、遅々として進まない。トランプ政権の迷走は深刻だ。
安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。