最新記事

<ワールド・ニュース・アトラス/山田敏弘>

サウジ国王が訪問を中止したモルディブが今注目される理由

2017年3月22日(水)17時40分
山田敏弘(ジャーナリスト)

ただサウジアラビアの投資をめぐっては最近、大きな論争が起きている。きっかけは、サウジアラビアが100億ドルを投資して、モルディブの首都マレから120キロほど離れた19の島々からなるファーフ環礁を「リース」する契約を交渉していることが明らかになったことだ。計画ではこの環礁を経済特区にし、港やホテルなどを建設するという。ちなみに100億ドルといえば、モルディブのGDPの3倍にもなる金額だ。

だがこの契約については、以前から別の島にからんで収賄などの疑惑が指摘されているアブドッラ・ヤーミン大統領が、サウジアラビアからの金銭の見返りに、国土を事実上売り払おうとしているという批判が国民から噴出している。抗議デモが起きるまで事態は悪化している。

今回サルマン国王一行がモルディブを訪問しなかった理由の一つには、この抗議デモとそれに伴う国民の反サウジ感情が背景にあったとされる。デモなどで混乱するなか、サルマン国王に危険が及ぶ懸念もあった。またサウジアラビアを標的とするISによる攻撃を避けたという説もある。

【参考記事】ロンドン直通の「一帯一路」鉄道で中国が得るもの

中国も触手を伸ばす

そもそも、モルディブでは現在の大統領と前大統領が、モルディブを取り囲む国々を後ろ盾として対立している。構図としては、アメリカをはじめとする欧米諸国やインドに近いモハメド・ナシード元大統領に対して、現職のヤーミン大統領はサウジアラビアに近い。またヤーミン大統領は、もうひとつ別の国とも親しい関係を強調している。中国だ。

中国はモルディブに触手を伸ばしている大国の一つになっている。中国政府は、中国西部から中央アジアを通り、欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」の構想とともに、2013年には、エネルギー輸送や貿易を視野に中国沿岸部から東南アジアを通り、インドやアフリカ、中東や欧州へとつながる「21世紀海上シルクロード」の構想を発表している。

その構想にモルディブの存在は欠かせない。またそれ以前から、中国は「真珠の首飾り」というインド洋の各地に港湾施設を建設する戦略も計画していて、これにもモルディブは含まれている。中国がインド洋で影響力を行使するのに、モルディブの存在価値は大きい。

また中国は、モルディブを、ライバル関係にあるインドやアメリカをけん制するための要所と見ている。モルディブは2001年から、マレの南40キロに位置するマラオ島を中国にリースしている。インド諜報機関によると、中国軍はこの島から大西洋の米海軍とインド海軍の動きを監視しているという。また将来的には、中国がこの島を潜水艦の拠点にする計画もあるという。

さらに最近でも、首都マレからほど近い無人島が、50年400万ドルの契約で中国政府系企業にすでにリースされている。ここは中国が「真珠の首飾り」戦略で港湾施設を建築することになる可能性があると報じられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米運輸長官、連邦航空局の改革表明 旅客機・ヘリ衝突

ビジネス

基調物価が2%へ上昇するよう、緩和的な金融環境維持

ビジネス

コマツの4ー12月期、営業益2.8%増 建機販売減

ビジネス

安定した物価上昇が必要、それを上回る賃金上昇も必要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中