オンからオフまで 英グレンソンの復刻ビンテージで足元を締める
ファッションを知る男の、伝統と改革の結びつき。
1866年に英国の靴の聖地、「ノーザンプトン(Northampton)」で創業し、いまなおこの地で手仕事の靴製造を続ける「グレンソン」。デザインディレクターとして関わり、のめり込むあまりに2005年に同社のオーナーになった人物が、ティム・リトル(Tim Little)です。来日したティムに、グレンソンとは何か、英国靴は実際に本国で愛されているのか、ロンドンの街事情についても語ってもらいました。
彼がよく口にした単語は「イノベーション」。変革させることが伝統の英国靴にも必要という考え方です。
「今回復刻した中に70年代のものもありますが、当時はアッパーとソールを簡単に接合していました。この点は改良すべきと考え、靴底の張替えができ履き心地もいいグッドイヤー製法に変更しました。このように、アーカイブの再現であっても良い方向を目指すのが私たちです」
広告業界にいた頃に「アディダス」などを担当し、靴の道に進んだティム。自身の靴ブランド「ティム・リトル」も、グレンソンと別にロンドンに店を構えています。伝統靴のマーケットが世界的に狭くなっていく中で、昔の勢いを失っていたグレンソンを再び表舞台に導いたのは、時代を読む力のある彼の功績です。では一般的に考えて、本場の英国では自国の靴がどれほど愛されているのでしょうか?
「そうですね、英国靴を好んで履くコアな人たちは確実にいますよ。ウィークデイは黒の靴を履き、休日には茶色を履くコンサバティブな人ですね。ただ、英国靴は価格が高い、という印象を多くの人が抱いているようです。米国製や日本製などの靴を履いている人のほうが数は多いかもしれません」
【参考記事】「グッドデザイン賞」が描き出す、デザインの未来とは。
ティムが言葉を続けます。
「それでもここ10年で雰囲気が大きく変わってきました。メンズマーケットが伸びています。ファッションを楽しむようになり、色のついた靴を履く人が増えました。グレンソンは世代を越えて愛されるブランドですが、高価なものばかりというイメージがありました。それを払拭するために、カジュアルなライン『G2』も用意しています。英国以外で製造することでコストを抑えたリーズナブルなラインです。スニーカーの代わりに履いていただけるカラフルなデザインが多く、より若い層の支持を広げています」
「ノーザンプトンの職人が手づくりするハイエンドな靴はつくり続ける」、と宣言するティム。彼のセンスを知りたくて、好きなファッションについても尋ねました。
「いま着てる『A.P.C.』や、『マーガレット・ハウエル』がいいですね。どちらも、シンプル&クラシック。グレンソンの美学とも共通しています。グレンソン以外の靴ですと、アディダスが好きです。『ガゼル(GAZZELE)』というモデルがお気に入り」
「東京は一番好きな街、ただしロンドン以外でね!」
と笑うティムに、東京よりロンドンのほうが優れていると思う点を尋ねてみました。
「ストリートファッション、音楽カルチャーでしょうか。最近はイースト・オブ・ロンドン周辺が面白い。センターの外側にある地域です。以前は危険なエリアでしたが、いまはクリエイティブで、ニューヨークのブルックリンのような雰囲気になってきてます」
さすがは広告業界出身の目線、といったところでしょうか。現代にあるべき英国ブランドの姿を追い求めるグレンソンから、この先も目が離せません!