最新記事

ベンチャー

ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか

2017年3月13日(月)21時40分
ケビン・メイニー

アメリカは中国に負けてばかり、というのはトランプの口癖だが、ウーバーは準備不足のまま中国市場に参入し、トランプの正しさを証明した。昨夏、ウーバーは中国の配車サービス最大手「滴滴出行」との合弁事業から事実上撤退した。これを機に、世界市場でも滴滴出行がウーバーを追い落とすことになるかもしれない。もしアメリカのユーザーが外出時に「ウーバーする」のではなく「滴滴する」というフレーズを使い始めれば、トランプは発作を起こすだろう。

苦境に追い打ちをかけるのが、ウーバーの財政事情だ。ウーバーは未公開企業だが、経営状態を示す数字がいくつか流出している。ブルームバーグは同社が2016年の第3四半期に8億ドルの損失を計上したと報道した。去年1年間の損失は30億ドルに上ったという憶測も飛ぶ。

IPOを拒む真の理由

ウーバーのビジネスモデルを維持するには、とにかくコストがかかる。より多くのユーザーに利用してもらうには、運転手を多数確保して、多額の報酬を払う必要があるからだ。大量生産でコストを削減するという、規模の経済はここでは通用しない。リフトやタクシーなどとの競争にさらされているため、料金を上げる力もほとんどない。それにもかかわらず、投資家から資金を募るたびに株価は上がり、時価総額は700億ドル近くに達している。既にゼネラル・モーターズ(GM)の時価総額を上回る。誰が見ても過剰評価だろう。

天を突く時価総額は、ウーバーの首を絞める可能性がある。創立8年目のウーバーは、多くのITベンチャーがIPO(新規株式公開)を行う時期にさしかかっている。それにもかかわらず、カラニックが頑なに株式公開を拒んでいるのは有名な話だ。

彼はまるで市場を必要としない異端児のように振る舞うが、本当の理由は、今のウーバーの財務状況でIPOを行っても既存の投資家に損をさせない高い株価が付かないからだとも言われる。もしそれが事実なら、ウーバーは窮地だ。小学校6年生レベルの算数ができる人なら誰でも、投資してもらうのは不可能だ。

時間を稼ぐにしても、救ってくれる忠実な顧客層はいない。顧客はウーバーでなければならない、というこだわりを持っていないからだ。ウーバーには得意客への割引制度も支持すべき社会的な価値もない。顧客と運転手の間に絆が生まれることは好まない。ウーバーの常連だからといって誇りを持てるわけでもない。

希望する価格で目的地まで連れて行ってくれる限り、人々はウーバーを利用するだろう。だがもっと良質なサービスや低料金を掲げる事業者が現れれば、さっさと乗り換えるはずだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中