最新記事

暗殺事件

マレーシア、北朝鮮の容疑者を釈放 金正男事件の捜査は暗礁に?

2017年3月3日(金)13時12分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

3月3日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシアの空港で殺害された事件で、殺害に関与したとして逮捕された北朝鮮国籍のリ・ジョンチョル容疑者が釈放され、警察車両で移送された。マレーシアで撮影(2017年 ロイター/Alexandra Radu)

<マレーシア当局は、金正男暗殺事件に関して容疑者として拘束している北朝鮮国籍の男を証拠不十分で3日朝釈放した。また北朝鮮とのビザ免除協定を来週破棄することも発表。こうした動きが今後、両国の国交断絶にまでつながるか、注目が集まっている>

金正男暗殺事件に関連してマレーシア警察当局に拘束された容疑者のうち、北朝鮮国籍の男リー・ジョンチョルは、拘留期限の3日朝に証拠不十分ということで釈放された。

APなどが伝えるところでは、マレーシアのモハメド・アパンディ司法長官は2日「リー・ジョンチョルが金正男を神経ガスVXを使って殺害したという証拠が不十分なため釈放する。有効な旅券をもっていないため、北朝鮮へ強制送還されるだろう」と語っていた。

聯合ニュースなどが伝えるところでは、3日朝収監されたセパン警察署から釈放されたリー・ジョンチョルはひげが伸び憔悴した様子で現れ、警察の護送用セダンに乗せられて、白バイとパトカーの先導で警察署を離れた。その後、移民局で手続きをしたのち、クアラルンプール空港から中国経由で平壌に戻るという。

リー・ジョンチョルは、大学で化学を専攻しており、金正男の暗殺に使われたVXを製造したという疑いがもたれている。また今回の事件に関与した北朝鮮国籍の男たちがマレーシアから北朝鮮に脱出する際、移動の車を運転したとも言われる。だが、どれもあくまで疑いのレベルだけで、リー本人は取り調べに対して「事件当日空港に行っていないし、空港の監視カメラにも自分の姿はない」と容疑を否認していた。

北朝鮮国籍の容疑者は全員帰国で、事件は迷宮入りか

今回、釈放されたリー・ジョンチョルのほか、マレーシア警察当局は、金正男暗殺事件に関わった容疑者として、北朝鮮大使館2等書記官ヒョン・ガンソン(44)、北朝鮮国営航空の職員キム・イクヨル(37)の事情聴取をクアラルンプールの北朝鮮大使館に申し入れているが、北朝鮮側はこの召喚要求に応じていない。二人は現在も北朝鮮大使館内に身を寄せていると見られている。

このほか、事件には北朝鮮国籍の男4人が関わったとされるが、この4人は事件発生直後の2月13日にマレーシアを出国、第三国経由で既に北朝鮮に帰国していることが判明している。3日にリー・ジョンチョルが釈放されれば、現在北朝鮮大使館にいる容疑者も含めて、マレーシア側は事件の全容を知る北朝鮮の関係者を一人も起訴できないままとなり、事件は迷宮入りする可能性が高まってきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中