最新記事

EU離脱

イギリスとEU、泥沼「離婚」交渉の焦点

2017年3月30日(木)19時00分
ジョシュ・ロウ

専門家らは、最終的に双方の国民が今の場所に住み続ける権利を保障するという予想で概ね一致する。

だがそれは単なる出発点で、先が読めないことが山積みだ。たとえばEU加盟国の移民はどの時点までにイギリスに入国していれば、その後も国内にとどまれるのか。従来と同様に、移民もイギリスの福祉手当などを受け取る権利があるのか。移民の子もイギリス人と同じ教育機会を得られるのか。母国を自由に行き来できるのか──。ちょっと考えるだけでも分からないことだらけで、肩をすくめるしかない。

■新しい関係

英政府はEUとの離婚協議を進めながら、EUと個別の自由貿易協定(FTA)も締結したい方針だ。イギリスにとってEU単一市場は最大の貿易相手先であり、国内に拠点を置く多くの企業が離脱による悪影響を最小限にとどめてほしいと切望している。

この手のFTAの締結は非常に複雑で、膨大かつ細かい作業を伴う。だがそれ以前に、まず双方の意見が食い違いそうなのが、交渉のタイミングだ。イギリスは離脱交渉と並行してFTAの話を進めたい意向だが、EUは離脱協議がまとまらなければ応じない構えだ。英政府は2年以内の交渉終了を楽観視するが、最長で10年を要するとみる専門家もいる。

関税同盟離脱後の輸出

イギリスが存在感を示すロンドンの金融街「シティー」が、「シングルパスポート制度」を維持できるかどうかも懸念材料だ。EU加盟国の1つで営業許可を取れば域内のどこでも自由に活動できる制度だが、離脱で適用がなくなればロンドンに拠点を置く金融機関に大打撃を与え、国外移転の動きが広がる恐れがある。

メイ首相はEUの関税同盟から離脱する考えを明らかにしている。関税同盟の下では、加盟国は相互の輸出品に関税を課さず、非加盟国に対しては同盟内で合意した関税(「共通域外関税」)を課す。

関税同盟離脱後もEUとできるだけ円滑に貿易が行えるよう方策を探ると、首相は述べているが、これまでのようには行きそうもない。

例えば、貿易の専門家が本誌の取材で指摘した問題がある。EU離脱後に英企業がEU加盟国に製品を輸出する場合、おそらくは「原産地規則」に基づくチェックが行われることになる。非EUの第三国から輸入した原材料や部品を使用していれば、それについての申告が必要となり、時間とコストが掛かるというのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中