ピュリツァー賞歴史家が50年前に発していた現代への警告
人は生存競争にさらされている。生きていくうえで競争は避けられない。他と競う個人には所有欲や好戦性、排他性、自尊心という特性がみられるが、個人の集まりである国家は、競争を戦争という究極の形でやってのけると警告する。
人はまた、自然淘汰からも逃れることができない。健康や能力、性質など、もって生まれたものは人によって大きく異なり、生まれたときからすでに淘汰は始まっている。人は生まれながらにして自由かつ平等の権利を有するとフランス人権宣言は謳っているが、自由と平等の両方を手にするなど不可能だという。
【参考記事】テロリストの一弾が歴史を変えた――第一次世界大戦史(1)
印象的なセンテンスを対訳で読む
歴史に学ぶのはもちろん、数々の警句も本書の魅力の1つである。以下は『歴史の大局を見渡す――人類の遺産の創造とその記録』の原書と邦訳からそれぞれ抜粋した。
●Society is founded not on the ideals but on the nature of man, and the constitution of man rewrites the constitutions of states.
(社会は理想ではなく人の性質を基盤に築かれる。人の性質が変わると、国の性質も変わる)
――大きくとらえると、歴史は繰り返す。それは、人間の性質の変化には長い時間を要し、人は飢えや危険のような何度も発生する状況に対してはいつも同じ反応を示すからである。しかし、新しい状況が生まれると、本能的な型にはまった反応とは異なる反応が求められる。社会は慣習と創造の相互作用によって進化していくという。
●Inequality is not only natural and inborn, it grows with the complexity of civilization.
(人は生まれながらにして不平等で、文明が複雑になるにつれ不平等は深刻化する)
●For freedom and equality are sworn and everlasting enemies, and when one prevails the other dies.
(自由と平等は深い恨みをいだく永遠の敵同士で、一方が栄えると一方が滅びる)
――人は生物学的に平等たり得ない。しかし、教育の機会均等を推進し、各人が能力を活かせるよう道を開くことは可能だという。
●Democracy is the most difficult of all forms of government, since it requires the widest spread of intelligence, and we forgot to make ourselves intelligent when we made ourselves sovereign.
(民主制は最もむずかしい政体である。民主制のもとでは、誰もが知性を身につけていることが必要になる。ところが私たちは主権を得たとき、知性のことなど考えていなかった)
――多数の人をだまして大国を支配することは可能だとデュラントは警鐘を鳴らす。耳に心地よいだけの言葉に乗らないよう、ものごとを知り、自ら考え、判断することが求められる。
50年も前に書かれた本だが、今を生きる私たちにも、歴史に対する新しい視点や現代という時代を理解するヒントを与えてくれる。
『歴史の大局を見渡す──人類の遺産の創造とその記録』
ウィル・デュラント、アリエル・デュラント 著
小巻靖子 訳
パンローリング
トランネット
出版翻訳専門の翻訳会社。2000年設立。年間150~200タイトルの書籍を翻訳する。多くの国内出版社の協力のもと、翻訳者に広く出版翻訳のチャンスを提供するための出版翻訳オーディションを開催。出版社・編集者には、海外出版社・エージェントとのネットワークを活かした翻訳出版企画、および実力ある翻訳者を紹介する。近年は日本の書籍を海外で出版するためのサポートサービスにも力を入れている。
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